そう言うとオカルト研究家は首を横に振った。
「いや滅多にいない。本当にたまに見かけはするが……。行方不明者が年に何万人いるって言ったって、その全部が神隠しってわけじゃないはずだしな」
「偶然同じタイミングで、いっしょの所に出るって可能性は?」
「ないない。まだ一回もない」
「じゃあ、珍しいことが起こってるんですね」
また入口の影を見て言う。だがオカルト研究家は俺の視線を追った後、首を傾げた。
「俺の前にも幽霊が来てたのか?」
「え?」
目の前の幽霊は、ふざけているようではない。
「あれを見てください」
改めて指をさして、オカルト研究家に言った。
「どれをだ? もしかして、いるのか? 幽霊が?」
幽霊であるはずの彼は、あの人影が見えていないようだった。じゃああれは生きた人なのだろうか。だがオカルト研究家は、生きた俺を見ることができている。少なくても生きている人間ではない。
だが、オカルト研究家が主張している幽霊……彼と同じ存在でもなさそうだ。
矛盾している。そう思うのと同時に、それもそうかとも思った。
死んだことのある幽霊はいない、というのは彼が勝手に言っているだけのことだ。その立場にいる人だからきっと真実だと思い込んでいたけれど、その主張は客観的に研究されたことではなく、主観からの、ただの思い付きでしかない。
生霊という幽霊が居て、生霊とは違う生者の幽霊が居て、死者の幽霊も居る。いや、こうやって綺麗に分類できるかも分からない。
人影が、さっきよりも近い位置にいた。パッと見ただけじゃ分からないほど、ゆっくりと、こちらへ寄ってきているらしい。
高鳴っていく心臓を感じながら、冷静な自分が『世界は複雑すぎるな』と、他人事のように思っていた。

























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