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心霊

るるちゃんさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

アパート303号室
短編 2025/09/19 12:13 1,243view
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僕がその部屋に引っ越したのは、春先だった。
大学進学で上京し、知人もいない街での新生活。駅から近くて、家賃も安くて、なにより日当たりが良いのが決め手だった。
ただ、少し気になる点もあった。
隣の302号室と304号室には、最初から誰も住んでいないという。管理会社の人は「ちょうど空きになっただけです」と言っていたけど、僕が越してきてから3ヶ月、どちらの部屋にも誰も入ってこなかった。
それでも最初のうちは平穏だった。
……最初のうちは。

それが起きたのは、夜中の3時ちょうどだった。
スマホをいじっていたら、どこからか「コン……コン……」と、壁を叩くような音が聞こえてきた。
最初は隣の部屋かと思ったけど、何かがおかしい。
隣には誰も住んでいないはずだ。
壁に耳を当てると、確かにそこから音がする。

しかも、叩く音だけじゃなくて、微かに――誰かの「息遣い」が混じっていた。
その夜は怖くなって、イヤホンをして寝た。

次の日の夜も、また3時ちょうどに音が始まった。
今度は、壁だけじゃなくて床からも音がする。
「コン……コン……ズズ……ズズ……」
引きずるような音と、何かを爪でひっかくような音。しかもそれは、明らかに部屋の中に近づいてきていた。
僕はベッドから飛び起き、部屋の電気をつけた。
何もいない。誰もいない。ただ、カーテンの隙間から入った月明かりの中、自分の影だけが、じっと動かずに立っていた。
その時ふと気づいた。
影が、僕と同じポーズをしていない。
影は、顔を上に向け、口を大きく開けて、笑っていた。

翌日、どうしてもこの最近の出来事が気になって管理会社に電話した。最初ははぐらかされたが、少し強めに詰めると、担当者がぽつりとこう言った。
「……以前、303号室で、一人の女性が失踪したんです。数年前の話ですが。部屋に物はすべて残されたままで……鍵も内側から閉まっていて。警察も来ましたが、結局、どこにもその人はいませんでした」
その夜、僕は部屋に帰らなかった。
でも、スマホに通知が来ていた。
監視カメラアプリが、部屋の中で動きを検知したと。
カメラには、僕が寝ているベッドが映っていた。
……いや、待ってくれ。
僕はそこにいないはずだ。今日は帰ってない。誰もいない。
なのに、ベッドには誰かが寝ていた。
カメラ越しに、布団の中の“それ”がゆっくりと起き上がる。
画面越しに、目が合った。
そして、「それ」が、笑った。
僕と、同じ顔で。

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