そして旅行の日。大学生だった姉もついてきて、久しぶりに家族4人で車に乗った。
車内は静かだった。姉、母は眠り、僕は音楽を聴き、父親は黙って運転していた。
ホテルまであと1時間のところで、コンビニで休憩を取ることにした。窓から景色をみると、そこには
深い青緑色が一面に広がっていた。田んぼだった。
そして僕はふと思い出した。
(そういや昔つまらなぇ怪談話を作ったな)
その瞬間、僕は
「ちょっと田んぼみてくる」
と言い走って行った。
ただ好奇心に動かされ、夢中で走った。
田んぼがもう目の前のところまでやってきた。
すると後ろから声がした。
「何してるの」
「えっ」
突然の声に僕は驚いた。
しかし、声の正体は姉だった。
「あ、まぁ田んぼ、えっと田んぼを見てるんだよ」
僕はオドオドしながら言った。
「喋り方どうした笑笑。てかあんた見てるんじゃなくて入ってるじゃん。」
下を見ると僕は靴、靴下を脱ぎ田んぼの中に足を突っ込んでいた。
「まぁ、もうちょっと時間あるから遊んでてもいいよ。農家さん来たらすぐいなくなるんだよ。」
そう言って姉はコンビニの方へ戻って行った。
僕はもう一度自分の足下に目を向けた。なんでだろう。靴脱いだっけな。
田んぼから出ようと靴と靴下を探している時、ある異変に気づいた。
靴と靴下が僕がいる位置とは真逆の位置にあったのだ。わかりやすく言うと、長方形の対辺の関係が近い。僕は確かにこっち側から来たはずなのに。と思い、取りに行こうとすると、見覚えのある灰色の何かを被った人間が靴の前に立っていた。
そいつの手の仕草は、僕の話の通り、招き猫のようだった。僕は急いでコンビニに戻ろうとした。しかし、足が動かなかった。奴がいる前の方向には動けるのに後ろにはいけなかった。
(どうすればいいんだよ)
僕は全身から冷や汗を流して必死にもがいた。
でも無理だった。
絶対にやりたくなかったが、奴がいる方向に行くことにした。
(大丈夫、あいつは手を招いてるだけで、動きはしない。大丈夫だ)
心にそう言い聞かせながら僕は前へ進み出した。
一歩一歩がすごく重い。でも止まるよりはこっちの方がマシだ。奴の姿がどんどん近づいてくる。目を向けないようにして、刺激をしないようにして、、、

























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。