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心霊

籠月さんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

探し出す
長編 2025/08/23 22:53 13,036view
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それからしばらくの時間が経った。
その日も家に帰って玄関を開けると、母の靴が揃えてあった。
今日は仕事で遅くなる日のはずなのに。
そう考えながら廊下を歩いてリビングに向かうと、部屋の中から母の声が聞こえた。
微かに聞こえるその声は、まるで誰かと会話しているようだった。
『はい、ほんとうに申し訳ありませんでした…、息子にもきちんと謝らせます」
とても申し訳なさそうに謝る母の声に何故か不安な気持ちが込み上げる。
『息子が帰って来たらきちんと言い聞かせます。はい、はい、もちろんです』
最初は電話なのかとも思ったが、
『あ、私お茶もお出ししないで…すみません。すぐ準備しますね、そのまま座ってて下さい』
その台詞を聞いてこの扉の向こうに誰かがいるのだと確信した。
恐る恐る扉を開けると、一番に目に入ったのはキッチンでお湯を沸かす母の姿だった。
僕の気配に気付いた母はハッとした顔で僕に駆け寄ると
『ちゃんと悪いことしたら謝らなきゃだめでしょ!なんでお母さんに言わなかったの!!』
と僕を叱責した。
僕が固まって動けなかったのは、いつも優しいお母さんがこれまでにない形相で僕を叱ったからではない。
リビングには母と僕以外誰もいなかったのだ。
「お母さん、今誰と話してたの…?」

『誰って分かるでしょう!そこに……え…』
後ろの誰もいないテーブルを振り返り呆然とする母の向こうでお湯の沸いたやかんが蒸気を吹き出していた。

その日の夜は気持ちが落ち着かないため湯船には
浸からずにシャワーで済ませた。
シャンプー中に目を瞑るのも怖くて、きちんと洗えてるかも分からない程に雑に髪を流すと足早に浴室の扉を開けた。
その時、カラカラと何かが音を立てて浴室の床を滑って行った。
浴室の隅に転がったそれを濡れた目を拭いながら拾い上げる。
見覚えのある、ちょうど蹴りたくなるような大きさの石ころ。
あの日僕が蹴り上げた石だった。
“ミッケ”
石には細い文字でそう刻まれていた。
あまりの恐怖に僕は石を投げ捨てると濡れた体のまま母のいるリビングに飛び込んだ。
『どうしたの、裸のまま』
ソファに座る母はこちらを向くこともないままそう言った。
「お風呂に…あの石が…いや、えっと」
どこから話していいか分からない僕がその場に呆然としていると
『痛かったよお〜血がダラダラ流れて止まらんくてな〜〜それはもう痛かったんよ』
壁を見たままの母が口を開く。その口調はいつもの僕が知る母のものではなかった。

壁を見たままの状態でも分かる。
母は笑っていた。歯を剥き出しにしたまま。
『謝らんとやろ』
母の頭がぐるんとこちらを向いた。
叫び声を上げた僕はリビングを飛び出し2階の自分の部屋に駆け込んだ。
部屋の扉を閉めてベッドに飛び込むと頭から布団を被って息を殺した。
全身を震わせながら一体どのくらいの時間が経っただろうか。
恐る恐る布団から顔を出した僕は思わず息を呑んだ。
閉めたはずの部屋の扉が開いていた。
大きく口を開けた扉の向こうに真っ暗な廊下が続いている。
その途端、廊下の向こうの階段を誰かが凄い勢いで駆け上がってくる足音が聞こえた。
低い男の唸り声と共に近づく足音はすぐに2階に到着しこの部屋へと直進してくる。
咄嗟に部屋の扉を閉めようと駆け寄る僕の目の前まであのおじさんが迫っていた。
おじさんが部屋に入ってくるギリギリの所で僕は勢いよく扉を閉めた。
と思った矢先、扉の下の方に何かが挟まっているのが見える。
あの時の石が扉が閉まるのを阻んでいた。
「ひ…ご…ごめんなさい…」
涙をボロボロと溢しながら恐る恐る顔を上げると、扉の隙間からグシャグシャに笑ったおじさんの顔がこちらを覗いていた。
“ミッケ”

3/4
コメント(4)
  • 想像してみたらやばい

    2025/08/31/20:34
  • ちゃんと謝ろう

    2025/09/02/16:03
  • 怖いけどなんでオバサンが死んでお母さんも取り込まれたのに逃げるだけでちゃんとは謝らないの?

    2025/09/03/11:55
  • 怖すぎるて寝れん

    2025/09/08/15:53

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