そして、件の村へ再訪しようとすると、道がない。
ダムはすでに完成していた――とされている。
だが、地図を照らし合わせると、あの“川”の流れが逆になっていた。
そう。
あの川は、本来北から南へ流れるはずだったのに、私が現地で見たのは――南から北へ流れていたのだ。
遺体が「戻ってきていた」。
そして今、私は気づいた。
ノートの冒頭に貼られていた、最初の投書の文。
「ここでは、“自分の遺体”を見た者が死ぬといいます」
この文の裏に、鉛筆でうっすらと文字が書かれていた。
「見た時点で、それはもう“死後”の話です」
今、この原稿を書いている部屋の「壁」に、妙な継ぎ目がある。
夢で見た、余分な廊下の角のような。
そこから、微かに水音がする。
ゆら、ゆら、と。
まるで、何かがこちらへ向かって流れてくるような。
何も見えない。
だが、気配がする。
おそらく私は、すでに見てしまっていたのだ。
あの川で、自分の死体を。
【註:本稿は西山望氏の遺稿として発見された。原稿の最終ページは白紙だったが、インクの染みが「逆」の字のような形をしていた。】
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