大学を出て、俺は教師になった。
正直なところ、教育に熱意があったわけじゃない。ただ、子供と接していると、どこか自分が「過去から抜け出せていない」気がして、落ち着いた。
赴任先は、郊外の少し寂れた町にある小学校だった。
赴任初日、校庭を案内されていたときのことだ。
「ここが体育倉庫です。生徒にはあまり近寄らせないようにしてまして…ちょっと老朽化してて」
教頭がそう言って指さした場所に、俺は目を疑った。
――体育倉庫の裏。
その奥に、あったんだ。
白線。
かすれてる。地面にしみこんだみたいな線が、校庭の端から延びてる。
おかしい。ここは昔通ってた小学校じゃない。まったく別の町、別の校舎だ。
「……あの線、なんですか?」
何気なく聞いたつもりだった。だが教頭は、一瞬だけ口をつぐみ、こう言った。
「……ああ。あれね、たまにあるんですよ、こういうの」
意味のない答えだった。
でも、俺はその日から、放課後に無意識にその白線を見に行くようになった。
そして数日後、ある生徒が近づいているのを見た。
グレーのジャージを着た、痩せた子だった。
名前を呼ぼうとして、言葉が出なかった。
喉の奥が、妙に乾いていた。
その子が、白線を見ていた。
そして、俺の方を振り返って、言った。
「先生。これ、見たことあるでしょ」
俺は、一歩だけ近づいた。
「君の名前は?」
「……忘れたんですか?」
その瞬間、頭の奥で警報のような音が鳴った。
「思い出してはいけない」と、本能が叫んでいた。
グレーのジャージ。笑い方。背格好。あの頃と、まったく同じだった。
その子が、ポケットから何かを取り出した。
白黒の、ぐしゃぐしゃに塗り潰された写真だった。
その中央に、俺の顔が――うっすらと見えていた。

























はあ?