あの白線、今でも残ってんのかな。
俺が小学校4年の頃、校庭の端っこ――体育倉庫の裏のとこに、地面に半分埋もれたみたいな白線が引かれてたんだよ。
走り幅跳びの目印か何かかと思ってたけど、他の子は誰も知らなかったし、先生に聞いても「何それ?」みたいな反応だった。
俺ともうひとり、当時よく一緒に遊んでた奴――えっと、なんだっけな、名前が…
いや、思い出せそうで思い出せない。あいつ、確かあだ名で呼んでたんだけど。
そのあいつが、妙にその白線に興味持ってさ。
「ここ、絶対なんかあるで」って。
で、ある日放課後に二人で、その白線を踏んで歩いたんだよ。白線って言っても、ほんとにかすれてて、地面ににじんでる感じの線だった。
でもその上をまっすぐ進むと、体育倉庫の裏の草むらに突っ込む形になる。
そしたら、そこに、妙に小さな木のドアみたいなのがあった。
地面にちょっと埋まってて、昔の避難壕の入口みたいなやつ。たぶん、今まで草に隠れてて気づかなかったんだと思う。
「開けてみよや」って言ったのは、俺じゃない。あいつだ。
俺は正直ちょっとビビってたけど、なんか、あいつに言われると逆らえないというか、妙に説得力あったんだよな。
で、開けたら、中は真っ暗。冷気がふわっと顔にかかって、腐った土の匂いがした。
懐中電灯なんか持ってないから、携帯のライトで照らそうとしたんだけど、当時はガラケーで、光が弱くてほとんど見えなかった。
でもあいつが「行こうぜ」って言うもんだから、俺、ついてっちゃったんだ。
中は、地下室みたいな作りだった。コンクリの壁、剥がれた掲示物の切れ端みたいなのが貼ってあった。
「防空訓練の記録」って文字が読めた気がする。
廊下の先に扉があって、開けると部屋があった。
その中、四方の壁に、写真がベタベタ貼ってあったんだ。
モノクロの、集合写真。小学生の集団が、こっちを見て立ってる。
でも、どの写真もおかしいんだよ。
同じ写真が何枚も貼られてるのに、見るたびに顔の数が減ってる。
一枚目では20人ぐらいいたのが、隣の写真では17人になってて、その次は14人…
最後の一枚では、中央にぽつんと、一人だけ立ってた。顔が真っ黒に塗り潰されてて、誰なのかわからない。
「これ、見たことある気がする」
あいつがそう言った。
「この最後の奴、俺やないかな」って。
その時は冗談かと思ったけど、なんか、すげぇ本気の声だった。
そしたら奥の壁に、もう一枚だけ、別の写真があった。
そこには、俺とあいつ――たぶんあいつだ――が写ってた。後ろ姿で、例の白線の上を歩いてた。
























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