私が実際に体験した話です。
7月下旬、一通の招待状が届きました。
『Aです。中学校の卒業式以来かな?元気にしてた?あの日々が懐かしいね!話は変わるけど、中学校が閉校することになったんだ。だから卒業するときに埋めたタイムカプセルを8月13日に掘り起こそうと思ってるんだけど来れる?お盆の帰省にあわせたんだけど。一応、埋めた場所の地図も入れておくね。そのあとで残ったメンバーで同窓会も行う予定だよ。絶対に参加してね』
読み終えた私は、奇妙な違和感を覚えました。Aはとても生真面目な男で、中学時代は生徒会長や委員長を率先して務めるような人物でした。一方の私はといえば、勉強を全くしないスポーツバカ。対極の立ち位置にいた私たちは、学生時代に交わることなど全くありませんでした。しかも、たまに話す時でさえAはいつも敬語だったはずです。それなのに、なぜこんなに砕けた文面の招待状を私に送ってきたのだろうか、と疑問が膨らみました。気になって、中学時代の悪友であるBとCに数年ぶりに連絡を取ってみることにしました。「Aから招待状が届いていないか」と尋ねると、驚いたことに二人とも届いていると言います。何年間も地元に帰っていなかったこともあり、「丁度いい機会だから三人で行ってみよう」という話になりました。
当日、私が学校に到着すると、すでに校門の前でBとCが待っていました。久しぶりの再会を喜び、近況報告に花を咲かせていると、同級生の女子三人(D、E、F)もやってきました。
Bが「お前らにも招待状が届いたのか?」と聞くと、Eは不思議そうな顔で「そんなの来てないよ」と首を振りました。手紙が届いたのは、確認できる限り私とBとCの三人だけ。女子たちが集まったのは、私が事前にEへ「招待状が届いたからタイムカプセルを掘りに帰省する」と話していたからでした。しかし、肝心の主催者であるAがいつまで経っても現れません。
昔話をしながら待ち続けましたが、気づけば待ち合わせの18時から2時間が経過し、あたりは完全に夜の闇に包まれていました。校門に集まったのは、結局私たち6人だけ。実質、招待されたのは男三人だけだったのです。この時、霊感の強いEは何かを察知していたのかもしれません。「タイムカプセルなんていいから、もう飲みにでも行こうよ」と、しきりに私たちを裏山へ行かせないよう仕向けてきました。しかし、バカだった私たちは「Aが来る前に、先に掘り起こして驚かせてやろうぜ!」と、逆に妙な熱を帯びてしまっていたのです。
いざ裏山の林に足を踏み入れると、うっそうと生い茂る木々が月明かりを完全に遮断し、視界は漆黒に染まりました。唯一の頼りは、頼りないスマートフォンのライトだけ。上京して都会の喧騒に慣れていた私にとって、久しぶりに体感する田舎の静寂は、異常なほど恐ろしく不気味に感じられました。そんな私の恐怖を余所に、ずっと地元で暮らしていたBとCは、携帯のライトで地図が示す場所をガツガツと探し回っていました。すると突然、Bがひっくり返ったような声を上げました。「おい!みんなこれ見ろよ!なんだか気味が悪いものがあるぞ!」
全員でBのライトが照らす先へ駆け寄ると、そこには『立入禁止/KEEP OUT』と書かれた黄色い規制テープが、一本の異様な大木を囲むようにして、幾重にも張り巡らされていたのです。「……なんだよ、これ」Cがごくりと唾を飲み込んだ。それはよく見ると、真新しいものではなく、ずいぶん前に張られたらしき色褪せた警察の規制線(KEEP OUTのテープ)だった。
さらにライトを下にめくると、木の根元には、いつのものかも分からない、すっかり茶色く干からびた花束が供えられていた。不気味な違和感が胸を刺す。しかし、私たちはその違和感を振り払うように、地図が示すその大木の根元を、持ってきていたスコップで掘り起こし始めた。
完全に陽は落ち、あたりは一寸先も見えない暗闇に包まれている。うっそうとした森林の中だからか、都会とは違う、五感を押し潰すような濃い闇が余計に恐ろしく感じられた。
ザクッ、ザクッ、と土を掘る不快な音だけが響く中、後ろで見ていたEがぽつりと言った。
「……ねえ。あんたたち、よくそんな手紙が来て、平気な顔してタイムカプセルなんて掘り起こせるね」手を止めずに、Bが「あ? 何がだよ」と生返事をする。「だって、あんたたち中学のとき、Aのことイジメてたじゃん」その言葉に、私とBとCは一瞬、動きを止めた。「……は? そんなことあったっけ?」私が記憶をたどる。しかし、まったく覚えていない。他の二人も「いや、記憶にないな」「関わりすらなかったろ」と首を傾げた。本当に、そんな記憶は一つもなかったのだ。「忘れたの? 最低だね」DとFも冷ややかな目で私たちを見つめている。女子たちの凍りつくような視線の中、スコップが硬い金属音を立てた。
――カンッ。
「……出たぞ」
土の中から引きずり出したのは、ひどく錆びついた金属製のボックスだった。鍵はかかっておらず、泥を払って蓋を開けると、中にはいくつかの思い出の品と、一通の茶封筒が入っていた。
宛名には、私の名前、そしてBとCの名前が並んで書かれている。震える手で封筒を引き抜き、中のおぞましい手紙を開いた。そこには、Aの歪んだ筆跡で、信じられない事実が書き殴られていた。
『これを読んでいるということは、君たちは地図の場所に来てくれたんだね。
僕は数日後、あの裏山の大木で首を吊って死ぬ。君たちが僕に毎日してきたこと、言ってきたこと、すべてここに書き残しておく。僕をイジメていた君たち。そして、それをヘラヘラ笑って見て見ぬふりをしていた同級生たち。全員、絶対に許さない。この手紙が届いたら、あの場所に集まってほしい。僕を裏山で一人きりにさせないでくれ。みんなで一緒に死のう。道連れにしてやる』
そこには、私たちがAに対して行ったとされるイジメの内容が、日付入りでそれは細かく、執念深く書き連ねられていた。しかし
――読み進めるうちに、私の背筋に冷たいものが走った。
「おい、これ……」私を含め、BもCも、そんな記憶は、本当に、ただの一つも脳裏に浮かばないのだ。Aの強烈な被害妄想や勘違いだったのか。それとも、私たちにとっては「悪気のない、無意識の言動や行動」が、Aにとっては死を選ぶほどの致命傷になっていたのか。今となっては確かめる術もない。「……なあ、Aが自殺したのって、もしかして」
Bがガタガタと震えながら、色褪せた警察の規制線が張られた大木を見上げた。
その時だった。
『……ミ……つけた……』





















書き直しました。