奇々怪々 お知らせ

ヒトコワ

爸爸さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

亡き祖母
短編 2025/06/06 00:22 958view
0

上京して2年の時の話。大学生活にも慣れてきた頃合いで、毎日サークルの飲み会に顔を出し、呑んだくれて朝に帰るのは当たり前。先輩に誘われて競馬場に行った事がきっかけで、競馬にハマり、ギャンブルにのめり込む自堕落な毎日を送っていた。その生活に対して罪悪感がないのかと言われれば勿論あった。だが、ギャンブルと酒はそういう善悪の問題で抑えられるものでは無かった。

 そんなある日の事、いつも通り競馬場に向かおうとして、ロードバイクに乗って道路を疾走していた。このロードバイクは中学生の時に末期癌で亡くなった祖母に買ってもらった物だ。そのロードバイクで競馬場に行く事は少し後ろめたいが、やはりギャンブルの快感に比べれば大した問題では無かった。勝った金で夕食に何を食べようか考えつつ、交差点に差し掛かり、直進して渡ろうとした時、左折してくるトラックが視界に入った。しかし、トラックの運転手からはこちらは見えていないようだった。ヤバいと思った。スローモーションのように世界が止まっていた。

 気がついたら病院の天井を見つめていた。しかし体は痛くない。私が意識を取り戻した事に気づいたナースが医者を呼びに行った。医者曰く、トラックに巻き込まれたものの、どういう訳か、軽い脳震盪を除いて全くの無傷であったらしい。安堵しつつ、トラックの運転手と話がしたいと思った。明らかに非は向こう側にあるし、場合によっては結構な額が取れると思ったからだ。

 「相手の運転手と連絡をしたいのですが。」

私がそう言うと、医者は顔を曇らせて言った。

  「相手の運転手は亡くなりました。」

訳が分からなかった。トラックと自転車が事故を起こし、トラックの運転手が死ぬ事なんてまず有り得ない。詳しい事情を聞こうとしても個人情報を理由にお伝え出来ませんの一点張りであった。

 不審な思いはあったものの、私の体は無傷同然であった為、トラックと事故を起こしておきながら、5日で無事退院となった。久しぶりに帰る自室は実家のような安心感があった。5日ぶりに飲む酒は格別の旨さがあり、生きている事に感謝しか無かった。缶を4〜5本空けた後、そのまま床で寝てしまった。夜中の2時か3時頃、物音で目が覚めた。自室を見渡して物音の原因を探してみると、タンスの上に立てかけた祖母の写真立てがガタガタと揺れている。その時私は気付いた。祖母が守ってくれたんだと、こんなギャンブルと酒に飲まれて不甲斐ない私を祖母が助けてくれたんだと。きっと自分の命と引き換えにトラックの運転手は連れていかれたのだろうと。涙が止まらなかった。何度も「ありがとう」と呟いた。

 それから1週間後の夜、寝ているとまたもや物音がした。ハッと目を覚まして、祖母に感謝を言おうと思った。その時どこからか声が響き渡った。

「チガウウウウゥ、ワタシジャナイィィ、カネドロボォォォ、ハヨコイィィィ」

今日も私は祖母に見守られている。

1/1
コメント(0)

※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。

怖い話の人気キーワード

奇々怪々に投稿された怖い話の中から、特定のキーワードにまつわる怖い話をご覧いただけます。

気になるキーワードを探してお気に入りの怖い話を見つけてみてください。