疲れたな……
ある日の仕事終わり、時刻はもう23時。車出勤の俺は、殆ど車の居ない国道を走っていた。
片道二車線で、昼間はそこそこ車が走っている道だが、もうこんな時間。静かな国道に俺の車のエンジン音だけが響いている。
こんな時間なのに、ご丁寧に信号は赤になる。無視してやろうかとも思ったが、左車線に白のセダンが1台止まっていた。居ないとは思うが、覆面パトカーだったら面倒だ。丁寧にブレーキペダルを踏み、車を停止させた。
疲れているせいで、いつもよりも赤信号が長く感じた。待っていても車なんて来ない。覆面じゃなかったら無視してやろう。明日も仕事だし。そう思って、横の車に目をやる。
覆面では無かった。だが、見たことを後悔した。
…バッチリ目が合ってしまったのだ。それも満面の笑みを浮かべている。全身に鳥肌が立った。
なんだコイツ…すぐに前に向き直る。気のせいだったと思いたくて、もう一度横を見る。
……やっぱり目が合う…ずっと見ている…
信号が青に変わった。気味が悪くて強めにアクセルを踏み、勢いよく車を走らせる。その直後、斜め後ろからとても大きくエンジンの音と走行音が聞こえた。
白のセダンがとんでもない速度で俺の車を追い越していった。運転席にはあのハゲ頭と満面の笑みがこちらを見ていた。またもやバッチリと目が合った。背筋が凍り、半ば暴走気味に家まで走らせた。
その夜はあのハゲ頭の満面の笑みが脳裏に焼き付いて寝つきが悪かった。
*****
次の日。またもや疲れた体でアクセルを踏んでいた。
23時。疲れで頭が回らない。何も考えずに赤信号で停止させる。
ふと、横の車を見た。白のセダン。昨日の出来事が脳裏を過り、身の毛がよだつ。
まさかと思いながら、恐る恐る隣の車に顔を覗かせる。
……いる…昨日のハゲ頭。笑っているようで、目が全く笑っていなかった。
早く青になってくれ…その思い虚しく信号は全然変わらない。
冷や汗が頬を撫でた。もう5月だ。夜でも暖かいはずなのに、嫌に寒い。信号は明らかにいつもより長く、全く青くなろうとしない。
思い切ってもう一度隣を見る。
やはりずっとこちらを見ている。
でも、さっきと様子が違う。何やら口を動かしてこちらに話しかけている。
声は聞こえない。でも確かに読めた。3文字の言葉。
『ま た ね』
信号機はまだ変わらない。ハンドルを握る手はじっとりと汗ばんでいる。いっそ信号無視して逃げよう。
ブレーキから足を下ろした。
しかし車は進まなかった。エンジンが停止していた。

























怖い