怪しい女
投稿者:カニクリーム (1)
夜、帰宅するとマンションの集合ポスト前に人が立っていた。
赤いタータンチェックのワンピースを着て、赤いベレー帽を被ったおかっぱ頭の女だ。
背は高く、多分180センチは超えていたと思う。
俺はその女を横目で見つつエレベーターに向かった。
その間も女は微動だにせず、ポストの前で棒立ちしている。
(はじめて見る人だな……)
エレベーターに乗り、ドアが閉まる瞬間、ずっとポストを見ていた女がぐわっと首を捻ってこちらを見た。
真っ白な、能面のような顔をしていた。
「ヒッ!!」
思わず小さい悲鳴を上げてしまった。
ドアが閉まり、エレベーターが上昇をはじめてからもしばらく心臓がバクバクしていた。
部屋に到着し、しっかり鍵をかける。
まさかあの女がついてくることは無いだろうと思うが、あの異様な雰囲気は普通の人間ではなさそうだった。
もしやストーカー?このマンション内に、あの女のターゲットになっている人がいるのか?だからポスト前にいたのか?
色々考えつつも俺は風呂に入って眠った。
翌朝、出社の支度をして部屋を出るとドアに何かが貼ってあった。
それは薄いピンクの事務用の付箋で
『あなたにします』
と書かれていた。
意味がわからなかったので剥がしてポスト前のゴミ箱に捨てた。
その日も仕事がすっかり遅くなり、マンションに到着したのは夜の11時過ぎだった。
俺はマンションに入ろうとして、思わず立ち止まった。
またあの女がいる……。しかも、女の立ち位置が昨日と若干違う。
女は屈んでひとつのポストを凝視していた。
それは俺の部屋のポストだった。
もしや、今朝ドアに貼り付けてあった付箋はこいつが……?
全身に鳥肌が立ち、足が震えた。
俺の存在に気づいた女が、能面のような顔でゆっくりこちらを見た。
「あ、いたぁ」
女がニタニタ笑いながらこちらに向かってくる。
その瞬間、俺は猛ダッシュで来た道を戻り、たまたま停車していたタクシーに乗り込んだ。
そして駅前のネカフェで一晩過ごした。
あの女が着いてくるんじゃないかと気が気じゃなかった。
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