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都市伝説

黄泉川 零さんによる都市伝説にまつわる怖い話の投稿です

クローゼットに棲む女
長編 2025/01/21 18:37 661view

不気味だった。

なにかに誘われているようだったし、底知れぬ悪意のようなものを感じた。
まるで誰かが私に『クローゼットに棲む女』を最後まで読ませようとしているように思えた。三回読むと死ぬと言われるこの呪われた話を。

時刻は深夜、私は誰もいるはずのない部屋の中を見渡してから、「クローゼットに棲む女 に」と検索した。

そこには新たな検索結果が表示された。

某有名小説投稿サイトに書かれたもののようで、これまで検索に引っ掛からなかったことが不思議だった。作者名は「に」。先ほどと同じくプロフィールから得られる情報はない。タイトルは『クローゼットに棲む女』で、投稿日時は2005年の8月10日となっている(ひとつめのサイトには投稿日時の表記がなかった)。

そして、ここに投稿された話は『クローゼットに棲む女①』から『クローゼットに棲む女⑤』という章タイトルで、五つの章に分かれていた。毎日ひとつずつ更新されていたようで、最後の⑤は8月14日に投稿されている。

その内容は「私」という一人称で語られた、一人の女性の日常だった。
怪談や奇談といった話ではなく、私小説や日記に近い。買い物に行ったりアパートの隣人と会話をしたり、そうした生活が淡々と綴られている。読んでいる途中、なぜ自分がこの話を読んでいるのかわからなくなったほどだ。タイトルがなければ都市伝説とは無縁の話にしか思えない。
それほどこのふたつめの『クローゼットに棲む女』は普通の、あるいはそれゆえに異質な話だった。

ただ、ふたつ奇妙な箇所があった。
まず、①から⑤まですべての章の書き出しが「ごめんなさい」から始まっていること。
そして、最後の章が「ぎなこがすぐそばにいる」という文章で終わっていること。
これらは前後とまったく繋がらない言葉だ。明らかに浮いているというか、意図が想像できないばかりか、話の邪魔になっているようにすら感じる。

いかなる目的で、これらの文章が挿入されているのか。ぎなことは、いったいなんなのだろうか。
私は寒気を感じずにはいられなかった。「ぎなこ」とは、『クローゼットに棲む女』のことではないだろうか。そんな嫌な想像が、振り払っても振り払っても絡みついてくるようだった。

この時点で私は、これ以上この都市伝説に関わることに、本格的な危険を感じ始めていた。そもそも三回読むと死ぬという呪われた話だ。その真偽はともかくとしても、この先には何者かの、明確な悪意が存在しているような気がしてならなかった。
見てはいけない。検索してはいけない。開いてはいけない。
——しかし。
同時に確かめなければ気が済まない。本当にみっつめの、最後の『クローゼットに棲む女』が現れるのか、それだけは確認しなければならないとも思っていた。
見るだけならば。検索するだけならば。開かなければ。
私は「クローゼットに棲む女 さん」と検索した。そこには。

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