お菓子売りの婆さん
投稿者:裏メシ屋 (1)
紙袋の中にはクッキー5枚とラップに包まれたカステラ、マフィンのような焼き菓子、それと手紙が入っていた。
手紙は達筆すぎて読むのに苦労したが、全部カタカナで
『〇〇サン オカシヲカッテクレテアリガトウゴザイマシタ。アナタノオカゲデ××ガスクワレルコトデショウ。オメデタイコトデス。アリガトウ』
と書かれていた。
なぜ俺の名前がわかったのかとゾッとしたが、おそらく名札を見られていたのだろう。
そして××の部分は何度読んでもなんと書いてあるのかわからなかった。
それから俺は山姥に会うのが怖くなり、わざと遠回りをして山姥のいる空き地の前を通らないようにした。
あの日貰ったお菓子は結局手をつけていない。
食べる気が起こらなかったのだ。
ある日、帰宅すると母親に
「ねえ、これ何?」
と何かを突き出された。
それは白い紙に筆ペンで書かれた手紙だったのだが
『〇〇サン マタイツデモキテクダサイ。××ハズットズットマッテイマスヨ。スクイハマダオワッテオリマセン。カナラズヤマタキテクダサイ』
と書かれていた。山姥に貰った手紙と同じ筆跡だった。母曰く、家のポストに突っ込んであったのだという。
山姥に家がバレている。
俺は怖くなってその場で大泣きし、母に全て打ち明けた。
母は怒りはしなかったが呆れたような顔をして「なんでよりによってあんな所で買い物するのよ…」と頭を抱えていた。ごもっともだと思う。
結局、母が学校か警察に何か言ってくれたようで、その後手紙が来ることはなく山姥も店を出さなくなった。
学校では緊急集会が開かれ、怪しい人から物を買うのはやめるようにときつく言われた。
それから一年後。
俺は山姥がいたこともそんな事件があったことも忘れて楽しい毎日を過ごしていた。
しかしある日、空き地の前を通った時に急に山姥のことを思い出した。
(結局あの人はなんだったんだろう。ただ頭がおかしくなっただけのおばあさんだったのかな)
あの手紙が強烈すぎて悪者扱いしてしまったが、よくよく考えてみたらただお菓子作りが好きで寂しがり屋の老人だったのかもしれない。
そう思うとなんだか可哀想な気がした。
ふと視線を感じて振り向くと、そこに山姥がいた。
驚いて尻餅をつくと、山姥がゆっくりと歩み寄ってきた。
そしてぐわっと顔を近づけ、歯のない口を開けた。
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