探し物
投稿者:たち (21)
その日は急遽急ぎの仕事が入り、残業のため夜中まで会社に残っていた。
明日は休みなので遅くまで残ることに抵抗はなかった。だが、外は雪が降り始めていた。
自宅までは峠を越えて行くため、天候のことだけが気がかりだった。
私は念のため、少し遠回りだが隣町から帰宅することに決め仕事をこなしていた。
仕事を終え、帰路につく頃には雪は止んでいた。
「普通にいつもの道帰ればよかったな。まぁ、いいか。」
「明日は休みだからゆっくり休もう。」
など考えながら運転していた。
隣町を抜けたあたりで、左側には畑でその奥に住宅、右側には大きな川がある道路を走っていた。街灯や民家の灯りが少なくなってきたので鹿や小動物に気をつけながら運転していた。
すると数メートル先にある街灯の下で何かがいるのが見えた。
衝突しないようにゆっくり近づくと私は目を疑った。街灯の下で女性が這いずりながら何かを探していたのだ。
「ビックリしたー。なんでこんな所に?」
と思いながらライトを照らしていたがこちらには見向きもせず必死に何かを探していた。
2、3分ほど待っただろうか、私は外に出て、女性に尋ねることにした。
「あのー、何か探し物ですか?」
と恐る恐る女性に近づきながら尋ねた。
しかし、返答はなくブツブツ何か言いながらずっと道路を探している。
「…ない。…ない。おかしいな。」
さらに近づき、
「何か探し物ですか?」と尋ねる女性はようやく動くのをやめた。
すると突然、私の両腕を掴み、顔をグッと近づけてきて言った。
「いない。いないの。おなしいな。」
私は恐怖で思わず、女性の腕を振りほどこうとしたが、ビクともしなかった。
「何がいないんですか?」と腕を振りほどこうとしながら言うと、
「今、人を轢いたの。人が倒れてるのにいないの。」
私は一気に鳥肌が立ち、全身に寒気を感じた。
目一杯の力でなんとか女性から離れ、
「人を?警察には連絡しました?」
と聞いても返答はなく、また
「いない。いない。おかしいな。」と言って探し始めた。
私は、おそらく事故のショックで混乱してるんだろうと思い、少し周りを探すことにした。
街灯から離れると街灯の灯りが届かなくなり、女性の声も小さくなっていった。
スマホのライトを片手に少し進むと畑に突っ込んでいる車を発見した。
「この車か。よく無事だったな。」
と思い、車のリア側のあたりを探したが何も見つからなかった。
「警察に連絡した方がいいな。」
と思い、女性がいるとこまで電話をかけながら歩いていった。
「もしもし、あのー事故なんですけど。私ではなく女性が事故を起こしてまして。」と話しながら街灯の下に行ったが女性の姿がない。
電話をかけながら、女性を探すが見当たらない。さっきまで聞こえていた声も聞こえない。
「あれ?えーと…さっきまで道路で轢いてしまった人を探してた女性がいなくなりました…」
「はい…お願いします…」
警察官が来てくれることになったので私は電話を切った。
私が来た道を女性が這いずりながら進んで行ったのかと思い、来た道を少し駆け足で戻ったが誰もいなかった。何が起きてるのか、わけがわからなくなった。とりあえず自分の車まで戻ることにし車内で警察官が来るのを待っていた。
10分ほどしてパトカーが到着し、警察官に事情を説明した。
畑に突っ込んでいる車まで案内し、私は絶句した。
確かに車は畑に突っ込んでいる状態だったのだが、運転席には先程の女性が亡くなっていた。
「え?この人です…私が始めに見つけたのは…え?どういうこと…?」
私は恐怖と混乱で上手く話すことができなかった。
その後、事故処理や救急車が来たがその先のことはあまり覚えていない。
ただ、はっきりと覚えているのは
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