みずから
投稿者:GO (1)
思い返すと、それはとても残酷ないたずらだった。
子どもだった私と君は、告白ゲームをした。
女の子に嘘の告白をして、成功したらネタばらしをして、女の子の反応を見る。これも今から思うと最低だった。
私は少し頭が回る子どもだったらしい。
ターゲットは君が恋をしている女の子を選んだ。
君は嫌がったけれど、彼女は私から見ても可愛い女の子だった。私の「彼女をターゲットにしたい」という熱演は、たいそう本気に映っただろう。
ちょっとした、イタズラのつもりだったんだ。
私たちは少し、残酷な子どもだったらしい。
ターゲットの彼女には、先にネタばらしをしておいた。
私の告白を受け入れた彼女を見る君は、果たしてどんな顔をするだろう。
私たちはお互いに、まるで壁に開いた穴から偶然となりの住民の私生活を覗き見るチャンスを得たような、下卑た笑みを浮かべて決行日を迎えた。
それは、笑い話で終わるはずだった。
君に先んじた私の告白を彼女は嬉しそうに笑って受け入れた。それは美少女の名に恥じぬ美しさで、思わず見とれた私は、君を少しの間だけ見失った。
彼女の視線につられて、君が隠れている場所へ目をやると、君は居なかった。
君は海に浮かんでいた。
私の手の中で息を引き取る彼女の笑顔を見て、あの告白ゲームを思い出した。
彼女の笑顔に見とれた私は、君から視線を外したけれど、彼女はたぶん見たのだろう。
私の告白を受け入れた自分を見た、君の表情を、彼女は見たのだろう。
私はそれが、とても羨ましかったことを思い出した。
私はずっとずぶ濡れの君に付きまとわれて、愛する君に付きまとわれて、ずっと幸せだと思っていたけれど、彼女もたぶん、君の最高の表情を見られて幸せだったのだろう。
私たちはいつ、君を失ったのだろうか。
私たちはいつ、彼を得たのだろうか。
ずぶ濡れの彼に寄り添って立つ、ずぶ濡れの彼女が遠くの波間に見える。11月の海は冷たかった。彼も冷たかっただろうか。彼女は苦しかっただろうか。
私は水から上がった。すっかり身体が冷えてしまった。彼女が年寄りとはいえ、それは私も同じ。力いっぱい沈めるのは酷く疲れた。もう還暦をとうに過ぎた老体にはこたえる。
もういちど遠くの波間を見る。彼と彼女が立っている。
もう私の近くに彼は居ない。彼は私に付きまとうことは無い。
しかし私は満足だ。
彼女の最後の表情を見られたのだから。
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