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不思議体験

3Qさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

娘と母親
短編 2024/12/01 10:42 783view

この度『実話怪談』として投稿させていただきますが、本音を言えば、これは出来ることなら怪談であってほしくないな、と思う話です。
実際のところ何も解決しておりませんし、どのカテゴリーに属する話なのかも自分自身全く分かっておりませんが……ご了承ください。
 
私は32歳の女です。
私はうつ病を患っており、家の近所のスーパーでパートとして働きながら隔週で月曜日の午前中に精神科を受診しています。自分の住んでいる町の中では大きいほうで、評判も良いのでいつも混んでいます。
 
病院へ行くといつもバッティングする二人の女性がいます。診察日の間隔が同じなんですね。
親子だと思います。知的障がいがあるのであろう30代後半くらいの娘さんと、おそらく60代後半に見える疲れ切った顔の母親という2人です。娘さんは目の焦点が合っていなくて、歩みがおぼつかない娘さんを母親が横から服をつまんだり引っ張ったりして支える形で常に一緒にいます。
私はその親子が苦手です。
理由は、その娘さんの方が頻繁にキョロキョロしながら「アウー!ウー!」と待合室中に響くほど高い声を出すからです。母親は「うん、うん……」と手を引いています。声量は完全に娘さんに負けています。何度か目が合った時の娘さんの顔は目が飛び出しそうなくらい大きくて、口からよだれの筋が光っていました。
まだそれだけなら良いのですが、一番イヤだったのが「まだ?!」と急に大きな声で母親に訊く事でした。これは待合室中に響く声量なのでその度にドキッとします。しかも不定期にそれが訪れるので、全く安心することが出来ません。周りにいる患者さんや病院スタッフさんも、静かに我慢して時間が過ぎるのを待っている雰囲気が感じ取れます。

被せるように「まーだ。」とか「まだだよ……」と母親は力無く伝えます。娘さんとしては早く家に帰りたいのかな、と。誰かとすれ違う時も母親が「すみません……」と沈んだ声で謝っています。
受付に呼ばれるのでイヤホンで音楽を聴いて耳を塞ぐわけにもいきませんでした。
それを見るたび、母親はすごい苦労してるんだろうな、大変だなといたたまれない気持ちになります。あの親子を見るたび心に陰が差します。将来母親がいなくなってしまったらあの娘さんはどうなるんだろう。
障がいが無ければ、娘さんの年齢からすれば年老いたお母さんを支える側であって……。
 
そんな事があるので、私としては病院を変えたいと思うほどまでだったんですね。ですが私は変えられませんでした。私の体調自体は以前より安定していて、主治医が変わる事はどうしても避けたかったからです。精神科に於ける患者と主治医との相性は重要ですから、また病院を変えて自分に合わない薬を処方されるなんて嫌です。
今の先生は優しいですし、やっと精神的にも安定してきた所だったのでこの親子については我慢をするしかありませんでした。原因はそのひとつだけなんだからと自分に言い聞かせていました。

それから半年ほど経った時です。もう最近の話です。
待合室で座っていると、入口の自動ドアが開いて例の娘さんが入ってきました。
たった一人で。
はじめは遅れて母親が現れるだろうと横目で見ていたんですが、誰も入ってくる様子がありません。

あれ……?
前を歩く娘さんは足取りがしっかりしていました。誰にも支えられてなどいません。前をまっすぐ見ているし、表情も明確に理性を感じました。
私は呆気に取られました。なんで?母親は?え?ひとり?
全く起こっている状況が分かりません。まるで(とても不謹慎ですが)普通の人のようです。

「○○カズコです。よろしくお願いします」
娘さんは診察券と保険証を置き、受付の方に言いました。
彼女が初めて言葉を話している姿を私は目の当たりにしました。 
受付の方もおかしいと思ったようで「あれ……カズコ、さん?ひとり?」と、珍しいものを見るようにまばたきを多くして尋ねています。
「はい……そうですう」
声色は明るいのに無機質さがある。まるでオウムやインコが覚えた言葉を発音しているだけのような。私は全身に鳥肌が立ちました。
「えっ……お母さまは、いらっしゃらないのかしら?」
「はい。母は、いません~」
カズコさんはずっと会釈ぐらいの角度で頭を下げている姿勢で、正面にいる受付の女性に全く目を合わさず、薄く笑みを浮かべています。

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