絵描き志望の友人
投稿者:まやら (1)
高校の美術部で知り合った友人は、本気でイラストレーターを目指していた。
卒業後、私は県内の短大へと進み、彼女は東京の専門学校に進学した。
しかし、SNSを通じて投稿される彼女の絵はプロになれるかと聞かれると微妙で、正直見下していた。お互いに進路が決まってからは会う機会が減っていたが、おそらく見透かされていたのだと思う。
専門学校に入学してから、彼女のSNSでは自虐や自傷を仄めかす内容のものが多くなった。一日に数十件投稿されることもあり、辟易した私はミュートにしてしまった。
それからは特に関わることもなく過ごしていたが、二年生が始まった春頃、一通の小包が届いた。
おそらく年賀状の住所を見て送ってきたのであろう。宛先を見ると彼女で、中には一枚の絵と手紙。ルーズリーフに走り書きされた手紙には、「私ちゃん、この人好きだよね?思わず描いちゃったから送ったよ!飾ってくれると嬉しいな。」
そんなことが書いてあった。絵を見ると、小さめの色紙に青空の下で楽しそうに笑う推しの姿。専門学校に通っているのにあまり上手くなってないな、などと失礼なことを思ったのを覚えている。
しかし、推しの絵は単純に嬉しかったのでDMでお礼を言うと、「喜んでくれたようでよかった!」とごく普通の返答。
絵は推しの祭壇に飾ることにした。
私が体を壊しがちになったのはそれからだった。親譲の免疫力で、健康だけが取り柄だと自負していたため、両親共々首を傾げた。主な症状としては頭痛、腹痛、眩暈などで、授業も休みがちになった。
その日もひどく体がだるくて、学校を休んで自分の部屋で寝ていた。推しの祭壇をぼんやりと眺めていると、あることに気がついた。貰った絵の、青空の下に何か赤いものが覗いているのだ。嫌な予感がした。
厚みのある絵の具で塗られた色紙。初めはそういう画法なんだと納得していたが、それを見てからは下にある何かを覆い隠すために塗られたものだと思わざるを得なかった。
揺れる体で這っていき、ゴミ箱の上で上塗りされた絵の具を剥がしていった。ボロボロと青色のかけらが溢れる度に、赤茶けた赤い何かが露わになる。
三分の一ほど剥がした後、私はこの絵を燃やす決意をした。
綺麗に剥がれたとは言い難かったが、確実に害を与えたいという歪んだ意志が感じ取れる、魔法陣のようなものが描かれていたからだ。
捨てるという選択肢は頭になかった。今すぐに燃やさなければ、もう一秒たりともこの絵と同じ空間に居られない。そう思った。
私はすぐさま仏間に行き、ライターを取ってきて庭で絵を燃やした。
それから、だんだん私の体は元の調子を取り戻していった。初めは喜んだが、やはりあの絵が原因だと確信してしまい、恐ろしくなってきた。
そこで、ずっとミュートしていた彼女のSNSを確認してみることにした。ミュート欄から探していると、それらしきアカウントはすぐに見つかった。
アカウント名は『ざまーみろ』、アイコンには黒の背景に歪んだ笑顔を浮かべた私の推しが描いてあった。
プロフィール欄は確かに以前の彼女と同じ文章。投稿まで読む気になれず、ブロックした後、自分のアカウントも削除した。
その後の彼女については意図して情報を得ようとしていないのもあって、わからない。
ただ、絵を燃やしてから一月もしないうちに推しが大炎上した。私もなんだか冷めてしまって、祭壇はもう無い。
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