カナちゃん
投稿者:倉本 (1)
その時。
「おーい!」
庭の池のほうからカナちゃんの声が聞こえました。見ると、橋の上にカナちゃんがいます。
「あっいた!なんでそんなとこに!」
私と幸太郎が駆けていくと、カナちゃんはニコニコと笑いながら言いました。
「もっと遊んでいたいけど、もう帰らなきゃいけないの」
「帰るって、どこに?お母さん達はどこ?」
「まだいないの」
まだいない……?不思議な言い回しに戸惑っていると、カナちゃんの身体が足元から徐々に透けていきました。
「カナちゃん!」
幸太郎が叫ぶと
「大丈夫だよ。また絶対会えるから」
そう言ってカナちゃんは消えてしまいました。
その後、幸太郎とどんな言葉を交わしたかはよく覚えていません。
ただ、夜なのに庭に出ていたので親にこっぴどく叱られたことだけは覚えています。
しばらくはカナちゃんの姿を鮮明に覚えていましたが、時間が経つにつれてだんだんと顔も声も思い出せなくなり、やがてはそんな出来事があったことも忘れてしまいました。
しかし、最近になって急にカナちゃんのことを思い出すことになりました。
年月が経ち、私も幸太郎も大人になり、幸太郎は結婚して娘ができました。
この間身内の葬儀で久しぶりに幸太郎に会い、その時初めて幸太郎の娘さんに会ったのですが、思わず固まってしまいました。
あの日、曽祖父の葬儀で会ったカナちゃんと瓜二つだったのです。
「香奈っていうんだ。可愛いだろ?」
幸太郎はあの日遊んだカナちゃんのことは全く覚えていないようでした。
ですが、香奈ちゃんのほうは私のことを覚えていたようで、ニッコリ笑って
「ほら、また会えたでしょ?」
と言いました。
怖い話とは違うのかもしれませんが、私が体験した唯一の不思議な体験です。
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