用水路の終着点
投稿者:kumanoko (2)
私が小学生の頃、夏は必ず祖母の家に行っていました。父と川に行き、山に昆虫を採りに行ったりしていました。
当時私はアメリカザリガニに憑つかれており、川や用水路を覗くのが大好きでした。
祖母の家の近くの川は、川といってもくるぶし程の水深で流れも緩やかでした。川は山中まで伸びており、しばらく歩くと小中一貫校の学校があったので、よく遊びに行っていました。
ある日、父にいつもより下流に行こうと言いました。学校を通り過ぎ、斜面を下り、山の奥の普段人が立ち入ることの無いような場所でした。
そこは森の中でしたが、ぽっかり開けた場所でした。用水路の終着点で沼地になっており、4メートル程の高さのコンクリートでできたコ字の壁や小さいコンクリートの溜池がいくつもありました。魚や生物の死骸が沢山流れ着いており、強烈な臭いがしました。そして巨大なアメリカザリガニや蟹、ナマズに鯉、規格外の大きさの蛙、外来種の生物などが蠢いていました。豊富な餌で巨大化したのだと思います。その光景に興奮したのを今でも覚えています。
ザリガニを持ち帰りたかったのですが持ち帰れるほど大きなカゴを持っていなかったので、渋々諦めました。
後日父ともう一度あの場所目指しましたが、どれだけ探しても見つからず、祖母に聞いてもそんな場所は知らないと言うだけでした。
その後何度もあの場所を探しましたが結局見つけることはできず、次第に記憶も薄れていきました。
―17年後の夏。
私は27歳。仕事の用事で祖母の家の近く機会がありました。翌日は休みだったので、祖母の家に一泊することにしました。祖母の家と言っても祖母は施設に入所しているので、家具こそ置いてあるものの今は空き家でした。
私は散歩しながら昼下がりの懐かしい風景を楽しみました。ですが橋の上からふと川を見下ろした時、あの場所の記憶が蘇りました。見たことのない大きさの生物達や無数の死骸、コンクリートの壁。いつしか忘れ去られたその記憶が、夢や幻ではないことを自分ではよく分かっていました。私は確かにあの場所を見たのです。準備をし、探索に向かいました。
あの時の山道は現在使われていませんでしたが、薄っすらと残っていました。山道を抜けると学校がありましたが現在は廃校になっており、廃れていましたが方向が合っていることは間違いありませんでした。
さらに下っていくと一面に田んぼが広がっていました。老人が数人いたので、私はあの場所のことを尋ねました。すると、老人の一人が巨大な蛙の話をしていました。
ですが、川をいくら下っても見覚えのある場所すら見つかりませんでした。当時はここまで歩いた記憶はありませんでしたが、下り続けました。すると天候が突然悪化し雨が降りだし、川の水嵩が一気に増しました。私は泥だらけでびしょ濡れでしたが、完全に我を忘れ一心不乱に川を下っていました。
雨が止やむと、嵩が上がったためか無数のザリガニがプカプカと流れていました。私は直感的に近づいていると感じました。
ぬかるんだ地面を抜け、高いすすきをかき分けると、遂にあの場所に到着したのです。
泥の中には20㎝ほどのウシガエルや、巨大なアメリカザリガニがいました。ですが、当時は無かったものがありました。小さいコンクリートの溜池の中にはキラキラ輝くものが沈んでいました。よく見ると、天皇陛下在位記念の500円硬貨でした。他にも大量の古銭が泥の中に沈んでおり、輝きを放っていました。しばらくすると人の話し声が聞こえてきたので私は咄嗟にすすきの茂みに隠れ、声のする方向に目を凝らしました。すると二人の男性が何かを話しているのが見えました。二人は巨大な生物たちは目もくれず、まるでこの場所知っているようでした。私は気づかれないようその場を後にしました。
結局大量の古銭や二人の男性は謎のままですが、それ以上に“あの場所”をもう一度発見できたことが何より嬉しかったことを覚えています。もう10年位以上も前のことですが、一生忘れることのない思い出です。
この手の話は大好きです。
ちょっとロマンあっていい