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ヒトコワ

鈍麻さんによるヒトコワにまつわる怖い話の投稿です

金魚鉢
短編 2024/06/04 15:54 1,347view
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私は完全寮制の中学校に通っていました。親の方針で早く自立するために、山の中で生活することになった私は、「なんでこんなところに行かなければならないのか」という文句を言いつつも、これから始まる中学校生活や他の人とは少し違う生活に少し優越感を感じながら、とても楽しみにしていました。

しかし、楽しみにしていた寮生活は、私の思い描いたものとは大きく違っていました。入学して一か月経ったころ、今まで優しかった先輩が豹変しました。ある日、同部屋の先輩に呼び出され、何事かと近づくと急に頭を殴られ、まだ理解が追いついていない私にこう言いました。

「これまでは優しくしていたが、これからは違う。これからは掃除洗濯すべてやってもらう。お前は俺の奴隷だ。」と言い始めたのです。私は、その言葉の意味を理解することができませんでした。

「なんで、こんなことをするんだ。理不尽ではないか」と思い抗議しようとした時、先輩が一言「来い」と叫びました。言いたいことはありましたが、ついていくと「金魚鉢」と呼ばれる部屋に連れていかれました。「金魚鉢」という部屋は、壁の半分が窓ガラスになっており、外から中の様子が見えるようになっていました。中の様子が丸見えで生活している様子が見えるため、みんなから「金魚鉢」と呼ばれていました。

なぜ、そんなところに行かなければならないのかと思いながらついていくと、窓ガラスの前に他の先輩と同級生が立って部屋の中の様子を見ていました。先輩は楽しそうに中の様子を見ていたのとは対照的に、同級生の顔は青ざめており、何が中で起きているのだろうと恐る恐る中を覗くと、何人かの先輩にタコ殴りにされている同級生A君がいました。A君は活発で、クラスの中心にいた子でした。そんなA君が何も抵抗できずに痛めつけられ、外にいる私たちに必死に助けを求めていました。しかし、私たちは恐怖と同じことにはなりたくないという気持ちで、一切動けませんでした。

その後、1分ほど経った後、A君は解放され、強面の先輩が一言私たちに言いました。「もし、これから俺たちに盾突こうと思うやつは、ここで反省するまで殴り続ける。だから、変な気を起こすな。」と言い放ちました。先生は、なんでこんなことを黙認しているのかという疑問と、どうしてこんなところに来てしまったのかという後悔が渦巻き、立ちすくむ中、強面の先輩の「解散」という言葉のもと、先輩たちはぞろぞろと帰っていきました。

先輩がいなくなった後、金魚鉢の中でうずくまっているA君を助けようと他の同級生と一緒にA君に「大丈夫か」と話しかけると、A君は何事もなかったかのように「大丈夫」と笑いました。その後、「こんなのはおかしい」と同級生と話し、先生に話そうとしました。しかし、結果的にはできませんでした。寮には逃げ場がありません。場所も山に囲まれており、逃げることもできません。もし先生に告げ口し、それがばれてしまったら何をされるかわかりません。あの金魚鉢の出来事が頭を離れないのです。また、先輩が金魚鉢を使う日はちょうど先生がいない間を縫って行われていたため、先生に気づいてもらうことはできませんでした。

その後、私も含めた同級生は抗うことを諦めました。そして、地獄のような日々を受け入れることにしたのです。金魚鉢の最初の犠牲者であるA君は、夏休みが明けた後、この寮に戻ってくることはありませんでした。先生も同級生も先輩も、誰もA君が転校するなどとは聞いておらず、今も何をしているのかわかりません。私は今でも、助けを求めていたA君に手を差し出すことができたら、A君はいなくならなかったのかなと考えます。

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関連タグ: #地獄#夏#学校#山
コメント(1)
  • 日生学園?

    2024/06/06/09:15

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