消えた従兄弟
投稿者:陰影 (1)
俺は和室に寝かされ、祖母に団扇を仰いでもらっていた。
母が心配そうな顔で氷枕を持ってきた。
「大丈夫?具合は?」
「大丈夫……えっと俺、どこで何してたんだっけ」
たっくんが心配そうに俺を見つめる。
「何って、俺と遊んでたんじゃん。そしたら急にトイレ行きたいって言い出して……」
たっくんの話によると、俺はたっくんと遊んでいる途中でトイレに行くと言い、そのまま戻ってこなかったらしい。
心配になったたっくんが俺を探すと、何故か台所の裏口にもたれ掛かるような形で倒れていたという。
当時は熱中症という言葉は無かったが、おそらく症状的に熱中症だったのだろう。
「ごめん、俺、記憶が曖昧で……」
トイレに行きたいなんて思ったっけ。
そもそも、トイレと台所は反対方向にある。
トイレに行こうとして台所に行くなんてこと、あるか?
水を飲もうと思ったのかな。
でもそうだとしたらなんで裏口のほうにいたんだろう。
裏口……裏口……何か忘れているような……
「あっ!!!」
急に俺がでかい声を出したので、たっくんも母も祖母も驚いたような顔をした。
「そうだ、そうだよ、正也!正也はどこなの!?」
俺が叫ぶと、母と祖母は顔を見合わせた。
「正也?それは誰?新しいお友達?」
おかしなことに、皆の記憶から正也の存在だけがすっぽりと抜け落ちていた。
正也の両親も「うちには子供なんていない」などと言っている。
でも俺ははっきりと覚えている。
正也は確かにいた。たっくんと俺と3人で仲良く遊んでいたんだ。
そうだ、隠れんぼをしていたんだ。そして……
「階段の下……!」
戸惑う皆を置いて、急いで部屋を飛び出して階段下へと向かう。
しかし、あの時確かに扉があったはずのそこは、ただの木の壁になっていた。
「ばあちゃん、ここに扉あったよね!?」
その場にいたような怖さを感じた。
異世界への扉だったのかな