消えた従兄弟
投稿者:陰影 (1)
後からついてきた祖母に尋ねたが
「いんや、そんなところに扉なんてねえよ」
と真面目な顔で答える。
「あんた、まだ頭が変なんじゃないの?休んでなさいよ」
母にそう言われ、仕方なく俺は和室に戻った。
結局俺はその後夜まで深い眠りについてしまったのだが、その時に変な夢を見た。
あの草原で、正也を探している夢だ。
名前を呼ぶと「ここだよー!」と返事が返ってくるのだが、声のするほうへ向かっても誰もいない。
そうやって暑い中、探して探して探し回って、やっと正也の後ろ姿を見つけた。
「正也!!」
急いで駆け寄ると、正也がゆっくり振り返る。
しかしその正也の顔は……
「わあっ!!!」
叫んで飛び起きると、隣で寝ていた父が
「どうした?怖い夢でも見たか?」
と頭を撫でてくれた。
母も心配そうに背中をさすってくれた。
俺はぼろぼろと涙を流しながら、延々と
「正也、ごめん、正也、ごめん」
と呟いた。
俺が戸をちゃんと開けられなかったせいで、正也はあの世界に囚われてしまったのだ。
夏休みが終わると同時に東京に帰ったが、その後もしばらくは正也の夢を見た。
しかし、だんだんと正也の姿が見えなくなっていき、しまいには名前を呼んでも返事が返ってこなくなった。
やがて草原に行く夢も見なくなり、正也に関する記憶も薄れ、次第に“正也はイマジナリーフレンドだったのだ”と思うようになった。
あれから長い年月が経ち、祖父母の家も老朽化が進み取り壊されることとなった。
最後に家の様子を見ておこうと家族で祖父母宅に訪れた時、俺は裏口の前に何かが落ちているのを見つけた。
それはあの日、正也が持っていた小さな懐中電灯だった。
あれ以来、あそこには足を踏み入れていない。
その場にいたような怖さを感じた。
異世界への扉だったのかな