事故物件とお隣さん
投稿者:アオゾラ カナタ (3)
「ただいまぁ……今日はいつにも増してすごいな……」
俺が大学生になりこのアパートの事故物件に住んでからもう2年、この部屋からは謎の視線を感じるのだ…。特に害はないから放置しているが謎の視線にはどうしても慣れない……。トイレや風呂に入っている時は視線を感じないのは不幸中の幸いだがそれでも少しおかしくなりそうだった……。じゃあ何故こんな部屋に住んでいるかと言うと金がないからだ、あれば今すぐにでも引っ越すしそもそもこの部屋に住んでいない。だが俺はこの部屋に住み続ける理由がある、それは…… 『ピンポーン』 噂をすれば来た。俺は少し心を躍らせて扉を開ける。すると扉の前に立っていた女性の髪の毛がさらさらと風でなびいた。
「こんばんは、今日は大丈夫?」
「はい、今日は一段と視線を感じますがお姉さんが来てからもう大丈夫です」
「もう、おだてても料理しかだせないわよ」
彼女は隣の部屋に住むOLのお姉さんだ。引っ越してきたその日に知り合い、こうしてほぼ毎日料理のおすそ分けに来てくれるのだ。
仕事が忙しいのか常にやつれている、それでもとても綺麗な人だ。彼女は俺の部屋の視線以外の相談を乗ってくれてとても優しい。
俺は彼女の事が好きだ。
「今日は肉じゃがですか?最近俺の好物をよく作ってくれますよね?」
「最近忙しいんでしょ?だから好きなもの食べて元気出さなくちゃ、だだ……」
「髪の毛ですよね、もう慣れましたから平気です。この部屋の視線と比べたら可愛いものです」
彼女は少しばかりドジなところもあり、よく料理に髪の毛が一本入っている時があるが俺の部屋の視線に比べたら全く嫌じゃない。むしろ入っていた方がお姉さんが傍にいてくれているみたいでちょっと嬉しい、というのは内緒だ。
「いつもご馳走様です、これ前回のやつのタッパーです」
「お粗末様、じゃあまたね」
俺たちは少し雑談をしたのち借りていたタッパーを返してそれぞれの部屋に戻った。俺はちょうど腹も減ったのでお姉さんから貰った料理を早速いただく食べることにした。俺はお姉さんに感謝しながら食べた。「上手い」俺はそう独り言を言いながら頬張る。彼女の料理を食べている時はこの部屋の視線も怖くはない。何故だか変わらないが、お姉さんの料理を食べている時が一番視線を強く感じるが料理を食べている時の俺は怖いものなしだ。「今日は髪の毛少し多かったな」俺は食べ終えるとそう呟いた。
その日の夜、夢を見た。俺くらいの年の男が語り掛けてくる 「ㇿ……ニ、ゲロ…………」 と聞いて目が覚めた。周りを見渡すと暗かった。「何だったんだ?」俺はそう思い水を飲もうと体を起こそうとしたが、体が動かなかった。出来る事は首を左右に動かす事だけ、それ以外は何もできなかった。もしかしてかなしばり?俺は2年ぶりにこの部屋に恐怖心を感じた。初めてこの部屋に引っ越してきた時…いやそれ以上に怖い。今まで視線を感じるだけだったのが突然牙を向けて来たのだ、これが怖いわけがない。どうにかできないかと思い俺は周りも見渡した。目が暗闇にまだ慣れていないからか周りの私物やその影しか見えない。そう思った瞬間だった、俺の頭部の方にさらっと細長い何かが当たった。俺は恐怖しながら顎を天井に上げるようにしてまだ見ていなかった頭の方を見た。そこにいたのは隣の部屋のお姉さんだった。お姉さんだと分かった瞬間俺の中にあった恐怖心はなくなった。ほっとした、お姉さんがいればもう安心だからだ。するとお姉さんが小さい声で何かを言い始めた。
「コレカラハズットイッショダネ」
綺麗なお姉さんは何者?
タッパにわざと髪を入れていますよね。
お姉さんの生き霊ですよね?
一部のM男はむしろ喜びそう