病み霊
投稿者:やうくい (37)
それから1ヶ月ほど経ったある日の晩、泣きじゃくるBさんから突然連絡が入りました。聞けば旦那さんの様子がおかしいとの事。
何ができるかも分かりませんでしたが、Aさんはとりあえず駆けつける事にしました。
Bさんの家に着くと、裸足に部屋着の状態で道端にうずくまるBさんがいました。
よく見ればあちこちに血が滲んでいます。
Aさんを見た途端また泣き出すBさんを宥め、話を聞く事にしました。
あれからも何事もなく過ごしていた2人ですが、段々と旦那さんの霊体に異変が起き始めたそうです。仕事から帰ってくると玄関に立っていて、凄まじい形相でBさんを睨みつけてくる。家の中があちこち荒らされて、あらゆる水から異臭が漂うようになった。霊体が赤黒く濁ってきており、今までのように話しかけても反応が返ってこなくなった。それでも今更どうすることもできず、Bさんはただ旦那さんと一緒に家で暮らしていました。そして今日、仕事から帰ってリビングで食事をしていたところ、突然コップが破裂してBさんはケガをし、赤黒く濁った旦那さんに襲われ、殺されそうになって外に飛び出したそうです。
あまりの事にAさんは言葉を失いました。普通の霊体が段々と悪霊と化すなんて、今までそんな事例は聞いたことが無かったそうです。それでもこのままにしておくわけにはいかず、Bさんに尋ねる事にしました。こんな事になったらもうどうする事もできないから、旦那さんの霊体を祓ってもいいかと。しばらくの沈黙の後、Bさんはよろしくお願いします。と絞り出すように言いました。
Aさんにはこれに対処できるほどの力は無かったので、次の日に知り合いの祓い師さんにきてもらう事になりました。その日の晩、Aさんの家に泊まったBさんでしたが、自分がしてしまった事への後悔か、一晩中泣いていたそうです。
次の日の昼頃、祓い師さんがお弟子さんを連れて来られました。ずいぶんとお弟子さんの顔色が悪いためAさんは心配しましたが、祓い師さんは大丈夫とだけ言って、お弟子さんと先に車で向かってしまいました。
泣き疲れてぐったりしたBさんに一緒に行くか尋ねましたが、Bさんは黙って首を振るばかりでした。仕方なく家に残し、AさんはBさんの家に1人で向かう事にしたそうです。
Bさんの家に着くと、祓い師さんだけが外にいました。話を聞けばお弟子さんは中にいるようです。Aさんと祓い師さんはなんどか集まりで顔を合わせて、連絡先を交換していた程度の関係で、どういった人なのか、どういう祓い方をするのか全く知りませんでした。
Aさんは困惑し、1人で中に入れて大丈夫なのか、体調も悪そうだったのにと尋ねました。すると、祓い師さんは面倒くさそうに早口で説明をしたそうです。あれは弟子ではなく祓い師さんに多額の借金がある人で、今回の件で借金が帳消しになる事。霊障なら人間を置いておけばエネルギーが燃え尽きて鎮まる事。Aさんは色々と引っかかりましたが、あと30分も経てば終わると聞かされ、待つ事にしました。
30分ほど経ち、祓い師さんがAさんを呼びました。一緒に玄関に入ったところ、確かに重たく澱んでいた空気が少し軽くなったように感じました。しかし、カビと煤が混ざったような臭いに、生臭い臭いが強く立ち込めています。本当に鎮まったんだろうか。そう疑問に思いながらもリビングに入った途端、Aさんは信じられないものを目にしました。
両手両足を縛られ、口と目に布を巻かれた人が転がっています。どうやら失禁しているうえ、顔の周りも何やらびっしょりと濡れており、ぴくりとも動きません。
生臭い臭いの正体はこれでした。
Aさんが振り返り、祓い師さんを問い詰めようとした瞬間、ものすごい強さで腕を引っ張られて廊下へ引きずり出されました。
転びそうになりながらも相手を見ると、顔面が蒼白になった祓い師さんでした。
脇腹を抑えているので見てみると、黄色い液体が滲み出ているようです。そこからも家中に漂う生臭い臭いがしています。
すぐに出て、救急車を。掠れた声でそう言われて、Aさんは玄関へ押し出されました。目を逸らす瞬間、祓い師さんの背後に赤黒く濁った人影が見えたそうです。
そのまま外へ飛び出し、Aさんは救急と警察へ連絡しました。15分ほどで先に警察が到着し、中に入っていきました。その後救急も到着して、中から祓い師さんだけが運び出されてきました。とりあえず祓い師さんの乗る救急車に同乗し、Aさんは病院へ向かう事になりました。祓い師さんの意識は朦朧としており、病院に到着後すぐに治療室へ運ばれていったそうです。結局、祓い師さんは助かりませんでした。救急車の中で最後に見た祓い師さんは、お腹周りの皮が全てなくなっていたそうです。それなのに血は出ておらず、黄色い汁だけが延々と流れ出し、生臭い臭いを放っていたとの事。祓い師さんのお弟子さんでは無かったようですが、縛られていた彼がどうなったのかも分からないそうです。
Aさんが病院であちこちに連絡したり、警察に事情を聞かれたりしているうちに、気づいたら夜になっていたそうです。ふとBさんのことが心配になり、連絡をしましたが繋がりません。警察からはとりあえず解放されたので、家へ帰る事にしました。家へ着き、玄関を開けた途端、あのカビと煤、生臭い臭いが鼻をつきました。今日あった事を一気に思い出したAさんは取り乱し、逃げ出しました。街をふらふら歩いているうちに朝になったそうです。
結局昼過ぎまでカフェで過ごしたりしていたAさんでしたが、とりあえず家には帰らないといけませんでした。強い守護霊を持っている友人に助けを求めて、一緒に家に着いてきてもらったそうです。覚悟して玄関を開けたところ、昨晩の臭いは嘘のように消え去っていました。そして、Bさんもいなくなっていました。結局、それから1度もBさんとは連絡が取れていないそうです。
あれ以降、Aさんは霊的なことからは距離を置くようにしているらしく、集まりにも顔を出していないそうです。時々霊視をして守護霊の力を見るくらいだと、笑いながら話してくれました。Aさんにも私にも強い守護霊がついており、私なら大丈夫だということで今回の話をしてくれました。私が怖かった話を強くせがんだせいもあるそうですが。
それでもBさんの家にはもう2度と近寄らないとか。いくらAさんでもこれ以上縁を強めるとタダでは済まない確信があるそうです。
それにしても、Aさんは旦那さんの霊よりもあの家を強く怖がっている印象を受けました。それに、Bさんのことも祓い師さんのことも恐ろしいと。そこについては尋ねてもはっきりとは教えてくれませんでしたが、人の命や霊を弄べば必ず報いを受けるんだと、何度も仰っていました。あまり知識がないですし、私としてもわざわざ関わりたくないのでお話はここまでとさせて頂きます。長い話を読んで下さりありがとうございました。
霊媒能力を持っているからこそ、ちゃんとご供養するべきだと思うのですが…執着と未練で成仏するべき魂を留めてしまうのは能力の乱用としか言えませんね。
澱んだ空気のところには悪しきものも多く集まりそうですし。生きた人間が心霊スポットを爆誕させたような感じですね。
おぅー
読み応えがあったのう
けっこう鮮明に情景が浮かんだ
修羅場という言葉だけでは片付けられない凄まじい現場だったのでしょうな
そりゃあ、旦那さんの霊なのか?閉じ込められたら上へも行けず成仏できない訳で。
怒りもあったんだろうねぇ
魔物化するのも無理はない
↑確かに