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心霊

やうくいさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

病み霊
長編 2023/06/30 00:08 5,303view
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これは、私が何度か霊視して頂いた霊媒師のAさんから伺った話です。
Aさんの知人にはやはりと言うべきか霊感の強い方が多く、かつ知識も豊富にお持ちの方が沢山いるそうです。
その中でも特に霊感が強く、霊に関する知識に精通しているのがBさんでした。
Bさんには結婚して20年になる旦那さんがおり、休日には必ず一緒に出かけるほど仲が良かったそうです。
しかしある日、旦那さんは家の階段から落ち、打ち所が悪かったらしく急逝されてしまいました。
Aさんはお葬式でBさんに会ったものの、あまり悲しんでいる様子はなかったそうです。
しかし、話しかけても上の空で、しきりに考え事をしているようでした。
きっとあまりの悲しみに心が追いついていないのだ。しばらく時間が経って、気力が回復したらまた話そう。Aさんはそう考えてしばらく距離を置く事にしたそうです。

2週間ほど経ったある日、Aさんに突然連絡が来ました。それは普段通りのような様子のBさんで、見せたいものがあるから家に来てほしいとの事でした。何かは打ち明けてくれませんでしたが、それで元気になってくれるならと、家まで見に行く事にしたそうです。
家に着くとBさんが出迎えてくれました。

髪もしっかり整えられ、化粧もしている様子に、Aさんは少し安心したそうです。
自分を投げ出すような事にはなっていなくて本当に良かった。Bさんにそう伝えると、ただ不思議そうな顔をされたそうです。
なにか違和感がありましたが、AさんはBさんのお宅にお邪魔しました。

家に入った途端、胸が閊えるような空気の重さを感じました。ここは外の空間とは完全に隔離されて、気の流れが止まっている。おかしな状態になっているとAさんは感じました。そのことをすぐBさんに伝えようとしましたが、既に家の奥に入ってしまっていました。Bさんを助けるため、Aさんはやむを得ず奥へ進む事にしました。
あまりに空気が重たく、息も絶え絶えになりながら廊下を進みます。リビングに入ると重さはさらに増し、カビと煤が混ざり合ったような臭いまでするようになりました。
Bさんはリビング奥のテーブルの上にお茶を用意していました。カーテンは全て締め切られており、灯りはついているはずなのですが、まるで黒い靄でもかかっているかのように部屋全体が薄暗く感じられました。
AさんがBさんに声を掛けようとした瞬間、テーブルについている影のような存在に気がつきました。あれは何なのだろう。影しか見えないのにじっと見られている事は確信できました。Aさんはしばらく黙って立ち尽くすしかなかったそうです。

Aさんがしばらく立ち尽くしていると、Bさんが振り返り、お茶の準備ができたからどうぞと言いました。旦那もいるけど気にしないでと。旦那もいる、Bさんはごく当たり前のようにそう言ったのです。
Aさんは冷や汗をかきながら伝えました。
あなたの旦那さんはもう亡くなったでしょう。悲しい気持ちは分かるけれど、お願いだからそれを思い出してと。

Bさんはしばらく黙っていましたが、口を開きました。そう、旦那は死んだけどここにいるのよ。見せたかったのはこれなのと。
そしてテーブルについていた影を指さして、分からないかもしれないけど、これが旦那なのよ。説明したいからお茶をどうぞ。
今更聞かずに帰れる訳もなく、Aさんは重い空気と嫌な臭いが強くなるのを感じながらテーブルに着きました。
Bさんは暗さも臭いもまるで感じている気配がなく、淡々と話し始めました。

旦那さんが階段から落ちて亡くなった日、倒れているのを見つけたBさんはすぐに救急に連絡しました。しかし、脈はなくぴくりとも動かない様子を見て、これは助からないと悟ったそうです。あまりに急な事だし、きっと霊体だけこの辺りに抜け落ちている。そう確信したBさんは階段を登り、2階を見回ってみました。案の定、旦那さんの霊体は自分の部屋で漂っていたそうです。こういった霊体は放っておけばそのうち外の気と混ざって出ていってしまう。それを知っていたBさんは咄嗟に全ての部屋の雨戸、窓、カーテンを締めて霊体を閉じ込めました。更に水槽と鏡を窓と玄関に置き、気の流れを止めました。
それから2週間、こうやって漂う旦那さんの霊体と一緒に過ごしているそうです。
声こそ聞こえませんが、Bさんには旦那さんの姿がはっきり見え、話しかければ反応もしてくれるとの事。
話を聞き終えたAさんは、どうしていいかわかりませんでした。明らかに家の空気は澱んでおかしくなっていますが、Bさんにとってはそれで良いのです。

結局その後も家と旦那さんの霊体について何も言えず、10分ほど話していたAさんですが、いよいよ空気と臭いに耐えられなくなり、逃げ出すように帰りました。
帰り際、玄関でまた話しましょうと手を振るBさんの背後では、旦那さんの霊体が漂っていました。生前もあんなふうに見送ってくれていた事を思い出し、泣きそうになったAさんは、あれで良いのだと自分に言い聞かせて、何も言わない事に決めたそうです。

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コメント(3)
  • 霊媒能力を持っているからこそ、ちゃんとご供養するべきだと思うのですが…執着と未練で成仏するべき魂を留めてしまうのは能力の乱用としか言えませんね。
    澱んだ空気のところには悪しきものも多く集まりそうですし。生きた人間が心霊スポットを爆誕させたような感じですね。

    2023/06/30/01:03
  • おぅー
    読み応えがあったのう
    けっこう鮮明に情景が浮かんだ
    修羅場という言葉だけでは片付けられない凄まじい現場だったのでしょうな
    そりゃあ、旦那さんの霊なのか?閉じ込められたら上へも行けず成仏できない訳で。
    怒りもあったんだろうねぇ
    魔物化するのも無理はない

    2023/06/30/20:14
  • ↑確かに

    2023/07/10/09:47

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