愛犬のマルと山奥の廃墟
投稿者:並の大盛り (3)
「マルー!」
廃墟の角から顔を覗かせると、廃墟の裏地には一層広大な土地が広がっていて、貯水池みたいな窪みが六つほどあった。
苔の色に淀んだ水に浮かんだ枯葉やゴミ。
そんな貯水池の一つに向かってマルは『ワン!ワン!』と吠えていた。
別に水が苦手なわけでもないのに、何故吠えるんだろうと思いながら、俺はマルに近づいて垂れ下がったリードを拾い、マルを抱き寄せた。
「駄目だろう、勝手に飛び出したら」
マルは『ハッハッ』と鼻をヒクつかせながら俺の顔を舐める。
そんな時、『ボコッ』と妙な音が鳴った。
一瞬、マルが屁でもこいたのかと思ったが、音がそれと違う。
何か泡が弾けたような音だった。
『ボコボコッ』
音の出所を探ると、貯水池の一つ、さっきまでマルが吠えていた貯水池の水面から空気の塊が浮かんでは弾ける動作を繰り返している。
それこそ風呂の中で屁をこいたように、ボコボコと連続して弾けていた。
俺は何かの設備が作動しているのかと思って、土地の主に気付かれたら面倒なのですぐにマルのリードを引いて「マル、おいで。ここから出るよ」と引っ張る。
しかし、マルは『ウウウウウウ…』とすごい剣幕で唸る始めると、貯水池に向けて警戒態勢をとる。
「こら、マルっ」
そして、俺がもう一度強くリードを引いた時だった。
『ドッ』
音自体は小さいが酷く重低音の響きが空気を伝わってきた。
(えっ、何だ何だ?)と辺りを見渡せば、半壊したような建物の屋上、見た感じ三階建ての屋上に設置された赤錆だらけの貯水タンクだろうか、その辺りから『ドッ』と音が響くんだ。
屋上の貯水タンクを見上げていると、今度は後ろの貯水池からも『ボコボコボコボコボコボコ』と泡が連続する。
あっちから『ドッ』と鳴れば、こっちから『ボコボコボコ』と鳴り、マルに至っては両方に向かって『ワンワン!ウウウ…』と吠えては唸ってリードを引いても動こうとせずてんやわんやだった。
「マ、マル、早く出よう…」
こうなったら抱き抱えて運ぶしかない。
そう思ってマルを抱き上げると、不意に『バシャッ』と水が噴き出すような音が後ろからした。
恐る恐る振り返ってみると、先ほどまでボコボコと泡が噴出していた貯水池から泥まみれの人の腕らしきものが飛び出し、縁を掴んでいた。
まさかこんな泥水の中に人が潜ってたのか?
そういう調査の仕事?作業中だったのか?
呆然としてその手の行く先を眺めていると、腕がもう一本『ザバッ』と水面から飛び出した。
どんな人が上がってくるのかちょっとワクワクしていると、まさかの三本目が『ザバッ』と飛び出す。
愛犬のマルに感謝ですね。