昨日の列車

これは、私が小学校低学年くらいのときの話。

私はそのときから今もずっと鉄道が好きで、その頃は休みの日によく母と鉄道に乗って出かけていた。
と言っても、大した距離ではないが。

ある日、母と用事のために鉄道に乗ったところ、とあるターミナル駅を発車した後、母が、

「あ、今何か通ったよ」

と言って、私も母と同じ方向を向くと、見たことない列車が走っていた。
今になって考えてみると、多分昭和後期あたりに製造された、当時では古めの特急用車両だったと思う。

私はそれに夢中になって、それが見えなくなるまでずっと窓の外を眺めていた。

しばらくして、目的の駅に着いたので、私と母は下車した。
そして私は母に、

「さっきの電車、すごかったねっ！」

と、未だに感じていた興奮を伝えると、母が急に怪訝な顔をして、

「さっきの電車？昨日見たやつじゃなくて？」

と言った。

え、と思った。

自分は確かに今さっき見たはずなのに、母は昨日見たやつでしょ、と仕切りに繰り返すのだ。
確かに昨日も出かけていたが、そんなものを見た記憶はない。

だが母がずっとそう言うので、そうなのだろう、と思ってそのときはそれで終わりになったが、今思い返してみると実に不思議である。

一体、昨日と今日、どちらに見たのが本当なのか。
未だにわからないものだ。