おばあさんちの垣根 (加筆修正場)
投稿者:kana (210)
近所に、一人暮らしのおばあさんが住んでいる。
もうかなりのお歳で、腰も曲がった小さなおばあさんだ。
普段、近所付き合いもあまりしないボクでもこのおばあさんの事を知っているのは、
通りすがりの赤の他人にも「おはようございます」「いってらっしゃい」と誰にでも声をかけるおばあさんだったからだ。
一度買い物帰りらしいおばあさんを見たことがあるのだが、カートを押しながらヨチヨチとゆっくりゆっくり歩いていた。また別の日には、もう暗くなりかけている家の前に立っている姿を見た。もちろん挨拶もされた。
おばあさんの家は少し坂道になっているところに石垣を作って建てられており、
古いけどけっこうしっかりした作りの家だ。
ただ、その家の玄関にたどりつくまでには石の階段を登らなくてはならず、
毎回見ていて「このおばあさんに石段を上る体力は残っているのだろうか」と心配になったりもしていた。
ボクはほぼ毎日、通勤のためにそのおばあさんの家の前を通っている。
下から眺めると、石垣の上には古い木々が生い茂り、垣根もうっそうと茂り、
家の全貌を隠している。
そして、つい先日のことなのだが・・・そのおばあさんの家の近くに来ると
ものすごくいい匂いがするのである。花の香である。
最初はそれほど気にもしていなかったのだが、その良い香りは三日三晩つづき、
さすがのボクも香りの正体を探ろうと見まわした。
「この香りは、ジャスミンか、ハクモクレンか、ジンチョウゲか?」みたいに、
本当は季節が違うのは知っていたが、あまりの甘い香りに思いつくものを頭に浮かべながら
当たりを探してみて、そして気が付いた。
おばあさんの家の垣根である。少し暗くてわかりにくかったのだが、薔薇の花である。
淡いピンクのたくさんの小ぶりな薔薇が垣根になっており、それが得も言われぬ良い香りを発していたのだ。
「うわ~そうか、薔薇か~」そう感心しながらしばらくその香りを楽しみ、家路についた。
もう何年もこの近所に住んでいるのに、あそこにこんないい香りの薔薇があったなんて、初めて知った。あまり詳しくはないが、ボクの知っているどの薔薇よりも良い香りだ。
薔薇にはたくさんの品種があるそうなので、きっと香りも千差万別なのだろう。
そんなことを思っていた。
翌日、通勤帰りのボクは、おばあさんの家の前で一瞬立ち止まって固まってしまった。
昨日まで、あんなにいい香りを発していた薔薇の垣根が、すべて刈り取られていたのである。おばあさんの家を隠すほどだった古い木々も、剪定業者の手によってすべて切り倒されていた。周辺には、薔薇の香りではなく刈られた植物の青臭い香りだけが漂っていた。
その日を最後に、おばあさんの家に明かりが灯ることもなく、家主がいなくなっていることを物語っていた。近所付き合いもほとんどしないボクには、これ以上のことは知る由もないが、今にして思うとあの薔薇たちは、自分たちの最後を知ってあんなに強く香っていたのではないだろうか。最後の最後にありったけ香って見せたのではないかと、そんな風に思えてならなかった。
お世話をしてくれたおばあさんに、きっと最後の挨拶をしていったのだろう。
kamaです。
少しだけ飛び出して2ページ目まで行ったので、編集して改行位置等調整して1ページに納めたのですが、なぜか2ページ目が何も文章が無いにもかかわらず残ってしまいました。
お話は1ページで完結しております。大変失礼いたしました。
kamaです。
ラストのあたりを編集しなおして、やっと1ページに収まったようです。
お騒がせいたしました。
kamaです。
今、2月でジンチョウゲがやっとつぼみを出していますので、多分3月ごろには咲くでしょう。咲くとファブリーズのようないい匂いがします。
このお婆さんの話は夏の話なので、文中にもある通り、本当はジンチョウゲなど咲いていないのですが、あまりに甘い香りが薔薇だと判らず、いろいろ考えた、というのは本当です。
垣根を取っ払ったら婆さんは既に亡くなっていたのか。
↑ということは、このバラはお婆さんの死体をチューチュー吸っていい匂いを出していたのか?
実は薔薇が殺した、なんてことになったら話が根底から覆る。