聞こえる歌声
投稿者:ぴ (414)
私は小さい頃から、あまり歌が得意ではありませんでした。
授業では音楽の授業が一番苦手で、とても恥ずかしい思いをするくらいです。
そんな私とは違って、妹はすごく美声で歌が上手だったのです。
昔から歌を歌う度に褒められ、大人たちにちやほやされていました。
密かに嫉妬して、妹にそのことでコンプレックスを感じていたこともあります。
そんな妹が亡くなったのは、私がまだ中学生の多感な時期でした。
突然の病気で、亡くなるまであっという間でした。
急に妹が亡くなったと言われても、まったく実感が湧きませんでした。
嫉妬している部分はあったけど、それでも大事な肉親です。
妹がいなくなったのは自分で思っていたよりもずっと衝撃的でした。
私以上に妹を溺愛していた母は部屋に籠ってしまって出てこなくなりました。
そんな日々が続いたある日、私の耳にフッとあの歌が聞こえるようになったのです。
私はそれまですごく歌が下手で、人前で歌う勇気なんてありませんでした。
でも耳に聞こえた歌声がなんだか懐かしくて、その歌を口ずさんでみたのです。
ものすごく上手に歌えて、自分でもびっくりしました。
そして歌っていたら、部屋に引きこもってあまり出なくなった母が妹の名前を呼びながら部屋から飛び出してきたのです。
妹が歌っているかと思ったらしかったです。
それくらいにあの頃の私の歌声は妹そっくりでした。
それから母が寂しがる度に、歌を歌うようになりました。
すると母が元気を取り戻していき、いつしか家から出られるようになりました。
そうやって家族がみんな復活して元気を取り戻してきた頃に、たまに聞こえてきたあの歌声がぱったりと聞こえなくなったのです。
同時に一時だけうまかった歌声が元の下手な歌声に変わりました。
今でも家族と「不思議だよねぇ」と話すことがあります。
まるで、落ち込んで仕方がない私たちを妹が救ってくれたみたいでした。
今では妹の分も地に足付けて、しっかり生きていこうと思います。
あの歌声はきっと妹が私たちに生きろと元気づけたものだったと思っています。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。