昨年の夏、彼女と小旅行に行った時の話です。
コロナ禍でここ数年どこにもいってないし、せっかくの夏季休暇だから、
車で遠出するくらいはしようか、ということになりました。
行き先は彼女の生まれ故郷で、盆地地形で歴史ある街並みが多く、観光地としても有名な所です。
とはいっても、彼女が中学生のときに県外に引っ越しているので、
親もきょうだいも住んでいません。
彼女は昔住んでいたあたりを通りかかると、
「駅前はお店がいっぱいできて賑やかだけど、ここはあんまり変わってないなー」
懐かしそうに、車窓を流れていく景色を見ていました。
田畑や雑木林が目立つ、牧歌的な風景です。
交通量も少ないので、のんびり走っていると、彼女が声を上げました。
「あ、まだ残ってたんだ」
「え? なにが」
彼女が指差す方向を見ると、最近ではあまり見られない建造物が建っていました。
火の見櫓です。
すこし離れたところで路肩に車を停め、火の見櫓の全景を眺めました。
骨組みや梯子は鉄骨で、長年の風雨にさらされ、かなり経年劣化が激しいようです。
「今は使われていないみたいだね」
「うん、私が子供の時から、すでに使われてなかったね、老朽化が進んで危険だからって」
「だろうね」
「でもね、ちょっと不思議なことがあったんだよね」
彼女が小学3年生の時、夜中に半鐘を鳴らす音で家族は目が覚めたそうです。
その音を聞きつけた近所の人たちも目を覚まし、窓を開けたり、外を見て騒いでいました。
近くの一軒家から火が出ていたのです。
幸い発見が早く、小火で消しとめられ、怪我人はなかったそうです。
「だけど、その頃はもう半鐘は取り外されてたんだよ、不思議でしょ」
彼女はそう言っていましたが、私には見えていました。
見張り台に立って、周囲を眺めている中年の男性が。
彼はこれからも町の安全を見守っていくのでしょう。
「町の守り神みたいなものかもね」
「そうかもしれないね」
心霊話が苦手な彼女には伝えず、私はゆっくりと車を発進させました。

























なんだか綺麗な話