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心霊

リュウゼツランさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

もしもーし
短編 2023/01/14 21:29 916view

実家は市営住宅で、僕は北側の部屋を使っていた。
そこでは祖母と母、そして僕の三人で住んでいて、当時母はよく飲み歩いていた。

ある日僕は仕事が長引き、帰宅が夜の10時を過ぎてしまう。
翌日も朝から仕事があるので、少しでも睡眠時間を多く取りたい僕は夕食を取らず入浴だけ済まして早々に布団に入った。
もともと寝つきが悪いので、その日も入眠までに一時間以上かかり、微かな雨音を耳の奥で聴きながら眠りに落ちそうになった時、「もしもーし」と、女性の声が聞こえてくる。

ようやく眠れそうだったのにと小さく舌打ちをした僕は、再度眠りに就こうとするけれど、「もしもーし」という声に邪魔される。
ここで僕は気づく。母親が帰ってきたんだな。酔っぱらって誰かに電話しているんだと。
しかし、声は明らかに窓の外から聞こえてきている。母親なら部屋の中で話すはずだ。
しかも、母にしては若過ぎる気もする。

じゃあきっと近所の人が電話でもしてるんだろうと納得しかけた時、ふと疑問が過る。
その市営住宅は住宅街の中にあり、二号棟のうちに来るのは通りすがりはありえない。
ピンポイントでうちに、いや、この部屋に向かわなければありえないことだと気づいてしまう。

「もしもーし」
女は繰り返している。
「もしもーし」
僕は恐怖で震えながら、薄っすらと目を開け窓を見る。
女のシルエットだ。
外灯が逆行になって、細身の女性っぽい影がはっきりと窓に浮かび上がる。

僕は恐怖し、必死に身を隠すようにして布団に包まる。
「もしもーし」
耳をふさいでるのにはっきりと聞こえる。
「もしもーし」
神様だか仏様だかに祈りながら耳をふさぐ。
そしてそのまま僕は気を失ったのか、気づけば朝になっていた。
母親は帰ってきておらず、朝までどこかで飲んでいたらしい。
仕事に行く前に、自転車を押しながら自室の窓の辺りを見てみるけれど、女が立っていた痕跡はなかった。雨で地面がぬかるんでいたのに、靴の跡はおろか、土には凹みすらなく、生い茂っていた雑草にも踏まれた様子はない。
翌日から僕は自室を南側の部屋に変え、それ以来一度も女の声は聞いていない。

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コメント(1)
  • おそらく朝帰りのお母さんに聞いても分からないだろうね。

    2023/01/14/21:57

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