透けて見えた女

私が一時期居酒屋のバイトをしていたときに、一人へべれけになるまで飲んで、ぐったりしているサラリーマンを見ました。会計を支払って外に出ると同時に飲みすぎて、店の前で崩れ落ちてしまいました。

店主の奥さんに目で指示されて、私は仕方なく外のお客さんに声をかけました。他のお客さんが出入りする入口にいたら邪魔ですから、なんとか酔っぱらいをその場から離れた場所まで連れていき、そうして話しかけました。そしたらサラリーマンの傍らにスッと女性が現れたのです。

それまでどこにいたかと不思議に思うくらいに、その人は急に現れて「うちの人がすみません」と謝られました。そして、すんなり私からその人を引き受けてくれたのです。私はとても安心して、その人を引き渡しました。どうやらサラリーマンの身内の人が近くにいたみたいなのです。サラリーマンは目を開けて、「みよこ・・・」と呼びました。その人はにっこり笑って寄り添って歩いていきました。

私は微笑ましく思いながら見送ったのですが、一瞬だけ女の人の腕が透けて見えた気がして、目を擦りました。そうして疲れているのかと思いつつ、店に戻りました。その数分後のことだったと思います。キキーっとなんだかすごいブレーキ音がして、それからドンと鈍い音が耳に聞こえました。周囲にざわめきが走り、そしてなんだか嫌な予感がして野次馬に混ざって見に行ったら、人が車に轢かれたショッキングな現場でした。車の運転手が救急車に電話して、あたりは一気に大騒動になっていました。

けれど不思議なことに、事故にあったのは男の人一人だったのです。服装はあのサラリーマンのものでしたが、隣に私が見た女性はいませんでした。あの後、交通事故でそのサラリーマンは亡くなったと聞きました。結局、あの女の人を見たのは私ただ一人で、死んだあの人の近くには誰もいなかったという話です。

今でも私はあの出来事を思い出してはゾッとします。おそらく腕が透けていたあの人はあの世からサラリーマンを迎えに来たんじゃないかと思っています。