殺されるかもしれないと本気で思った瞬間
投稿者:あずあず (1)
大学生時代の話です。教科書研究センターというところに調べ物をしに行った時のことです。
入館し、閲覧したかった書籍が見つかったため、テーブルで学習することにしました。館内には利用者が多く、どのテーブルも埋まっていましたが、1つだけは1人の男の人が座っているだけだったので、迷わずそのテーブルに座りました。
すると、同席していた男性(以後Aさん)は、ご自分のノートや本を慌ててご自身の方にかき集めるように引き寄せ、迷惑そうに…というより恨めしそうに私の方を見るのです。Aさんの格好は、今では珍しくもなんともないのですが、室内で帽子をかぶり、メガネをし、マスクをしている上、とても大柄でした。メガネの奥の瞳は、赤く怒りに満ちたような、涙で潤んでいました。
若干の薄気味悪さを感じつつも、私も椅子に座り調べ物を始めました。書物に集中していたので、Aさんには目もくれませんでした。ところが、ややあって、Aさんは席を立ち、私のテーブルの横まで来て、言葉は何も発しなかった代わりに、靴で床を「カツン!」と、館内に鳴り響くくらいにタップしました。
びっくりして、顔を上げ横に立っているAさんの表情を見ると、鬼の形相で涙を流しています。またまた薄気味悪く…というより、恐怖を感じ始めました。しばらくの沈黙があり、幸いなことに彼はその場を立ち去りました。
こうなると、私もいてもたってもいられません。急ぎ自分の荷物をまとめ、館を出ることにしました。身の危険を感じたのです。
館を出て、「はあ、おっかなかった!」と半ば安どの気持ちで、館の玄関を振り返ると、なんと恐ろしいことにA氏も玄関にいて、私をじっと見ながら、あとを追おうとしているのです。
戦慄が走るとはこのことでしょう。そして次の瞬間、私は人生でもこんなに速くは走れないというくらいに、走りに走って逃げました。最初はAさんも小走りに私を追っていたようですが、途中からは見えなくなりました。
最寄りの駅「市ヶ谷」駅で電車に乗り、ゼイゼイ言いながら、ドアが閉まった車内から駅のホームを見るとA氏が立っていました。どこかで捕まっていたら、きっと殺されていただろうなあ…と、何十年たっても思い出す恐ろしい体験でした。
そいつが机でどんな作業をしていたのか、気になる。