ホーチミンのトラウマな夜
投稿者:ねこじろう (147)
あの光景が脳裏を離れない。
寝ているときも、目が覚めていても。
事ある毎に瞼の裏をフラッシュバックする。
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仕事を休んで今日でもう4日になる。
その間ずっと薄暗いリビングの片隅で体育座りし、一睡もしていない。
食事も水さえも摂らず。
何故かって?
瞼を閉じると、あの恐ろしくて悲しい光景が現れるんだ。
昨晩からはいよいよ意識が朦朧としだしていた。
そろそろ肉体的にも精神的にも限界を迎えようとしているみたいだ。
このままここで朽ち果ててしまうくらいなら、、、
そう思って決心した俺は部屋を出て、ふらふらとしながらマンションの屋上まで行くと、安全柵を乗り越えコンクリートの緣に立つ。
雲は血の色に染まっていた。
今日という日が死を迎えようとしている。
その時
あの一週間前のベトナム旅行での忌まわしい記憶が、まるで16ミリの映写機が映し出すセピア色の映像のように脳内で再生されだした。
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ベトナム、ホーチミン市のタンソンニャット国際空港に到着したのは、午後6時過ぎ。
そのままタクシーで市内にあるホテルに直行し、6時30分頃にチェックインする。
会社の有給を利用しての、今回通算5回めになるベトナムへの旅行だ。
一泊二日の旅程は過去4回の時と変わらず、
ホテルにチェックインした後近くのレストランでベトナム料理を食べ、その後はタクシーで10分のところにある市民公園に行き、現在そこの敷地内で行われている地元で有名なサーカス団の曲芸を見学することだ。
部屋で軽くシャワーを浴びた後、軽装に着替えホテルを出ると、歩いてすぐのところにあるベトナム料理のレストランに入った。
日本の大衆食堂を思わせるようなレトロな店内は、結構賑わっている。
地元の人間と観光客は半々くらいだろうか。
奥の方にある安っぽいテーブルに通された後、ビールと後は適当に料理を注文をする。
ビールを飲みながら店内の喧騒をボンヤリ眺めていると、
5年前のことがつい最近のように思われる。
2歳下の28歳だった妻【未稀】との新婚旅行で訪れたのが、初めてのベトナムだった。
この席ではなかったが、初めて入ったベトナム料理のレストランがここだった。
もちろん今日チェックインしたホテルも。
俺はこの店で彼女と2人楽しく会食した後、地元で人気のサーカス団を観に行った。
そう、今日これから俺が行くところだ。
5年前、その場所で未稀は忽然と姿を消した。
全ての出し物が終わり、会場が明るくなって、他の観覧者とともにぞろぞろと出口に向かう途中のことだった。
館内アナウンスを何度となくしてもらったが、ダメだった
地元警察にも来てもらい、テント内やその周辺を捜してもらったが見つからなかった。
新婚旅行は一週間の滞在を予定していたが、残りの日程の全てを妻の捜索に費やした。
だが最終日になっても見つかることはなく、俺は地元警察に捜索の継続をお願いし忸怩たる思いで帰国する。
その後毎年8月になると俺は、有給休暇を利用してベトナムを訪れる。新婚旅行の時と同じホテルに泊まり、同じレストランに行き、同じサーカス団を観るためだ。
最初のうちはもちろん観光などではなく、何か未稀の見つかる手掛かりがないかという切なる思いの旅行だったが、ここ最近は、単なるセンチメンタルジャーニー(傷心旅行)になってしまっていた。
YouTubeで似たような話を見たことがありますが、こういう話って海外だと多くありそうですよね。
それが本当なら警察に。
本当の話なら警察に行って取り返さないのか?
Holy shit!