中古車買ったら彼女と別れることになった

出る直前に画面を見ていなかったが声からして彼女だった。
しかし、かなり怒っている口ぶりだ。

『〇〇くん、ほんとに他に女いんの？マジ有り得ないわ』

彼女は一方的に怒ってたが、俺は事故のせいか妙に冷静に彼女の怒りを黙って聞いていた。

『もう別れよ』

そして、彼女からは発せられた絶望の言葉を受けても俺は黙っていた。

『さよなら』

そう言って通話が切れても俺はスマホを耳に当てたまま黙ってた。

警察か救急車か知らないがサイレンの音が近づいてくる中、俺は自分の事故車両をぼーっと眺めてた。

運転席側だけへしゃげた俺の車。
俺を引きずり降ろす為に通行人が助手席のドアを開けたのでそのまま開きっぱなしだ。
だが、その解放された助手席に人がポツンと不自然に座っている。
体のラインからして女性に見えるが、その女は俯いているせいか長い髪が垂れて表情が窺えない。
しかし、俺はその女に心当たりがあった。

Ｃ子が言っていた助手席の女。
Ａが言っていた血まみれの女。

どちらも当て嵌まった女がゆっくりと俺の方を向いてニヤりと微笑む。

俺の怪我は右足の骨折で済んだ。

直るには大体半年程度だと言われた。
事故の調書を取るのに何回か呼び出されたりして事後処理は面倒だったが、生きてるだけでまだマシなのかもしれない。

因みに車は廃車にしてもらった。
自損事故の保険に加入してなかったのも痛かったが、入院費とかも予想外の出費は親に泣きついた。

そして彼女とは事故の後に一応お見舞いの連絡はあったが、結局別れる事には変わりなかった。
俺は事故に遭うきっかけとなったあの呼び出し電話、結論から言うと彼女は俺に電話していないと言ってた。
声も口調も彼女そのものだったから「そんなアホな」と訝しんだが、何故か俺のスマホに通話履歴が無かった。
まるで前に一度車の中で彼女が髪の毛を見つけた際の無言電話のようなすれ違いだった。

そのせいか、彼女も気味が悪くなったのか、俺が復縁の話を切り出す前に別れ話が確定して完全に俺達の関係が終わった。

事故以来、Ｃ子やＡが言う女は見ていないが、俺がいったいその女に何をしたというのだろう。
まさか中古車を買っただけでこうなるとは思いもしなかったが、皆はこうならないように中古車を買う時は気を付けてほしい。