異形の参拝者
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雪の降る日のことだった。その日、夕食の食材を切らしていたので、俺は粉雪が舞うように降る中、家からそう遠くないスーパーマーケットに行くことにした。
時刻は5時半、俺の視界は、夕闇を背景に、街灯に照らされて白く降りしきる粉雪で覆われた。時折、ひょうひょうと冷たい風が俺の顔を撫でる。俺は早く買い出しを終わらせたかったので、足を早めた。
スーパーマーケットまであと1分もかからないだろう。そんなことを考えながら、神社の近くに差し掛かった時だった。
ガランガランガランッッ…
突然、なにやら奇妙な音が聞こえた。そして数秒後、俺はそれが神社の鈴の音であると気づいた。
こんな暗くて雪の降っている時に誰が?
俺は少し怪訝に思ったが、買い出しをとにかく終わらせて、早く帰りたかったのでその場を後にした。
スーパーマーケットに到着した。俺は傘に着いた雪を払って、凍えた身体を引き摺るようにして店内に入った。店内は暖かく、買い出しをした後もしばらく店内で休むことにした。
さて、そろそろ行くかな…
雪の勢いも少し弱まったので、俺は帰路に着くことにした。「ありがとうございました!」という言葉を背景に、俺は店の外に出た。雪の勢いは確かに弱まっていた。来た時よりも空は暗くなっていて、人通りは普段より少なく、町はどこか寂しく思われた。
帰る途中、神社の近くに差し掛かった。俺はふと、神社に誰かがいた事を思い出した。その時だった。
ガランッガランガランッッ
再びあの神社の鈴の音が木霊した。俺は背筋に冷たいものが走り抜けるのを感じた。
一体誰がこんな日に?
まさか一人でずっとやってる訳じゃないよな?
俺はこんなことを考えながら、その場から動けなかった。そう考えている間も鈴の音はガランガランとなり続く。
帰りたいと思う気持ちは強かった。しかし、ここに来て俺の中に、こんな雪の日にどんなやつが神社の鈴を鳴らし続けているのか、それを見てみたいと思う気持ちが芽生えだした。寒さと恐怖とひと握りの好奇心。しかし、ひと握りの好奇心は時計の針が秒針を刻むごとに増していった。
ちょっとだけ、覗いてみよう。
そう決するや否や、俺は足音を忍ばせ、境内に入った。
境内は白く染っており、社に通じる石の道には薄く雪が積もっていた。道の左右にあるLEDの灯篭がぼんやりと雪で覆われた道を照らしていた。足跡がないことから考えて、あいつは長時間鈴を鳴らしているようだった。
ガランガランッッ ガランガランガランッッ
近づくにつれ、音は大きくなっていく。俺の足はぶるぶると震えていた。
このまま行けばやつの姿は拝めるが、見られたら確実にやばい…
そう考えたので、これまでの道をはずれて、社の右斜め前にある倉の蔭からから異常者の様子を伺うこととした。
フカッ…フカッ…と注意深く雪を踏みしめ進む。そして、俺はついに倉から社を見ることができる所に着いた。
ガランガランッッガランッッガランッッ
息を潜めて様子を伺うと…
ベージュのコートを来て、長い白髪を振り乱した女が、一心不乱に神社の鈴を降っていた。女は狂ったように、奇妙な踊りを踊るように、ガランガランッ…と鈴を鳴らし続けていた。
全てが異常だった。まず、女の身長が2mぐらいと、異常に高かった。そして女は骨格や関節を自在にくねくねさせながら、ありえない動きで神社の鈴を鳴らしていのだった…そして俺はもっと恐ろしいことに気がついた。どういうわけか、女の周辺に灯りがないにもかかわらず、女の姿がはっきりと見えていたのだ。
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