行方不明になった友人の話

Ａの父親から『そこの住所を教えてくれないか』とせがまれたので、俺はＡの父親とラインを交換し、住所と外観の画像、そして最寄り駅を綴った内容を送信した。
恐らく警察に捜査してもらうつもりなのだろうが、あまり期待を抱かせないよう念の為に「Ａはいませんでしたよ」とボソッと伝えたが、父親はそれでも可能性にしがみつきたいのか感謝の言葉を押し付けられた。

また、Ａの実家の住所を教えてもらった俺は、平屋で回収してきたＡの荷物を段ボールに詰め込んで送った。
これはＡの父親に頼まれた事で、当然ながら代金は送金してもらったのだが、どうにもあのＡのスマホを本当に送ってもよいものかと最後まで判断に苦しんだ。

Ａのスマホの中にはＡの……恐らく最後の自撮り動画が記録されている。
当然ながら俺宛に送られてきた俯瞰視点の動画ファイルはＡの父親に見せていない。
果たして、Ａの父親はこれを見て正気を保てるのだろうかという心配はあったが、俺は割り切る様に覚悟を決めて段ボールに詰め込んだ。

数日後、再びＡの父親から電話が入ると、出るなり物凄い剣幕で怒鳴られた。

『なんだあの動画は！何の悪戯だ！Ａも本当はそこに居るのか！』

内容はそんな感じだったが、Ａの父親が動画を見てかなり怒っている事はすぐに理解できたので、俺は慌てながら「ちょ、落ち着いてください」と窘めるのにかなり時間がかかった。

落ち着いて話をすれば、どうやらＡの父親はＡのスマホに保存されたあの動画を見たらしく、Ａの惨たらしい叫び声を聞いて錯乱したようだ。
あの動画は何なのか。
Ａが何を見てあんなに怯えているのか。
Ａは無事なのか。
父親は思いつく限りの質問を並び立てる。

当然ながら俺がその答えを知る筈もない。
俺は終始宥めるだけの相打ちを繰り返すが、不意に父親が俺とＡのラインの内容に言及していきたので、俺は「しまった。Ａの端末だから俺宛に送った例の動画も見られたか」と奥歯を噛んだ。

俺は更に怒鳴られるのではと思ったのだが、意外にも父親が『……すまない』と謝罪した後に『何がどうなってるのか……』と深いため息を吐いた。

父親は俺とＡのラインのやり取りを遡ったのだろう。
俺がＡの失踪に関与していないばかりか、Ａが一方的に例の動画を送り付け、俺が「この動画何？」と返信していたり心配する内容を送っているのを見て冷静になってくれた。

ただ、心の何処かでＡが俺と結託して笑えないドッキリを仕掛けているのではと疑い、そっちの方が失踪されるより余程心が楽になると覇気の無い声で本音を綴っていたのだが、俺はやり切れない気持ちになって落ち込んだ。

それから更に数カ月経過したが、依然捜査に進展はないそうだ。
例の家に立ち入る為に平屋の所有者を探したそうだが、役所が記録する限りでは名前は分かっても本人が存命なのか、何処に住んでいるのかが分からなかった。
ただ、父親が数少ない手がかりがその家にあるかもしれないと何度も頭を下げた事で、警察は介入できなかったが、役所の人間が立ち会う事で何とか中を見る事が出来たものの、特に手がかりに繋がるものはなかったと語る。

「あの、俺はその、押し入れとか見てなかったんですが、何かありました？」

久しぶりにＡの父親と連絡を取った日、俺は近況報告を受けた後にそんな事を口走っていた。
少し間を置いて父親は『いや、隈なく見てみたけど、Ａのものは何にもなかったよ』と深いため息を吐いたので、俺も心の何処かで安堵したため息を漏らした。

そうか、親父さんはアレに出会わなかったのか。

あれから約１年半が経ち、俺は激流の就職活動を乗り越えて何とか職にありつけている。
ただ、今もＡは行方不明のまま見つかっていない。