お札の値段
投稿者:ろーどくだもん (2)
「飯でも食って帰るか」
うなずいた田中が、後部座席に声をかける。
「加賀、何か食いたいもん、あるか?」
加賀は、車の右に身を寄せていた。シールのように貼り付いて、右の窓から外を見ていた。
「ねえ、なんか寒くないかな…」
加賀は、落ち着かない様子で、そう言った。
「そうか?冷房切るか?」
俺は、スイッチに手を伸ばした。
そうして思い出した。そういえば、トンネルの入り口で切ったはずだ…。
「僕の左側から、なんか冷気が来てるんだけど…」
加賀は、外を見ながら、そう言った。
その声には、左側だけは絶対に見ないぞという、強い意志が感じられた。
「加賀ぁー、脅かすなよ」
上ずった調子で、田中がおちゃらけた。
「山の上で、体が冷えたんだよ」
取ってつけたように、言葉を重ねる。
「もう、そこらのファミレスでいいよ。暖かいもんでも食えば治るって」
最初に見つけたファミレスの駐車場に、車を突っ込んだ。
車から出ると、熱気でムッとする。
そして、ゾッとした。
なんで車の中あんなに冷えてんだよ。
俺たちは、何かから逃げるように、急いで店内に入った。
深夜だからか、客もまばらな様子だった。
すぐに、店員がやってきた。
「いらっしゃいませ」
チラッと俺たちを見て。
「四名様、ご案内です」
大きな声で、そう言った。
ホワイトボードは、まだ十万円のままだった。
本気で百万円になってるかと思ってたんで、助かったような、腹が立つような。
加賀は、ファミレスに置いてきた。
お札が来るまで、そこで待ってるそうだ。
もう、車には乗りたくないらしい。
無理も無いよ。
田中にも、どうするか聞いた。
相当に迷ったようだが、一緒に来てくれる事になった。
「加賀も心配だけど、お前も心配じゃん」
ちょっと涙がでた。
俺たちは、コンビニで金を下ろして、ソッコーで引き返した。
寒さと恐怖に震えながら。
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