「飯でも食って帰るか」
うなずいた田中が、後部座席に声をかける。
「加賀、何か食いたいもん、あるか?」
加賀は、車の右に身を寄せていた。シールのように貼り付いて、右の窓から外を見ていた。
「ねえ、なんか寒くないかな…」
加賀は、落ち着かない様子で、そう言った。
「そうか?冷房切るか?」
俺は、スイッチに手を伸ばした。
そうして思い出した。そういえば、トンネルの入り口で切ったはずだ…。
「僕の左側から、なんか冷気が来てるんだけど…」
加賀は、外を見ながら、そう言った。
その声には、左側だけは絶対に見ないぞという、強い意志が感じられた。
「加賀ぁー、脅かすなよ」
上ずった調子で、田中がおちゃらけた。
「山の上で、体が冷えたんだよ」
取ってつけたように、言葉を重ねる。
「もう、そこらのファミレスでいいよ。暖かいもんでも食えば治るって」
最初に見つけたファミレスの駐車場に、車を突っ込んだ。
車から出ると、熱気でムッとする。
そして、ゾッとした。
なんで車の中あんなに冷えてんだよ。
俺たちは、何かから逃げるように、急いで店内に入った。
深夜だからか、客もまばらな様子だった。
すぐに、店員がやってきた。
「いらっしゃいませ」
チラッと俺たちを見て。
「四名様、ご案内です」
大きな声で、そう言った。
ホワイトボードは、まだ十万円のままだった。
本気で百万円になってるかと思ってたんで、助かったような、腹が立つような。
加賀は、ファミレスに置いてきた。
お札が来るまで、そこで待ってるそうだ。
もう、車には乗りたくないらしい。
無理も無いよ。
田中にも、どうするか聞いた。
相当に迷ったようだが、一緒に来てくれる事になった。
「加賀も心配だけど、お前も心配じゃん」
ちょっと涙がでた。
俺たちは、コンビニで金を下ろして、ソッコーで引き返した。
寒さと恐怖に震えながら。























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