陰陽師の声と犬
投稿者:LAPAN (1)
中学生の頃、夏になると心霊番組が多く放送されていて、怖い話や映像が好きな私と母は良く見ていた。
心霊番組が好きなくせにとても怖がりだった私は、当時飼っていたゴールデンレトリーバーのラブにぴったりとくっついて観ていた。
ある日放送された番組で、心霊現象に悩む依頼者を陰陽師が除霊をするという内容の放送があった。
私も母も、そしてラブも居間で番組を観ていた。
依頼者が体験した話や、陰陽師と依頼者のやり取りなどがあり、やがて除霊へ。
正座して座る依頼者の前に陰陽師が立ち、呪文のようなものを唱え始める。私と母は画面に集中していた。
ふと、私の横で伏せの体勢でリラックスしていたラブが起き上がって、後ろのダイニングキッチンを振り返った。私は、きっと外の車の音か何かが聞こえたのだろうとあまり気に留めなかった。
画面の中では除霊が進んでいく。
ラブはダイニングキッチンの方へゆっくりと歩いて行き、廊下に出て行ったのが足音で分かった。今思えば、何かを警戒するような足取りだった。
テレビでは陰陽師が依頼者に、いや、依頼者に取り憑いた霊に何か言葉をかけ、また呪文のようなものを唱え出した。それは先程よりも強い声色だった。
その時「ワンワンワン!」とラブの鳴き声が廊下から聞こえた。
私と母は鳴き声がした方を見てから顔を見合わせ「どうしたのかな?」と首を傾げた。
陰陽師の除霊は続き、呪文の声も大きく強くなる。するとラブが激しく鳴き出した。
何事かと驚いた私と母はラブのいる方へ向かった。
外に向かって吠えていると思ったラブは、電気の点いていない真っ暗な階段の上に向かって吠えていた。
「ラブ」と呼びかけても、ずっと階段を睨んで吠えている。怒っている様子だった。
その間も陰陽師の声が廊下にもうっすら聞こえていた。
二階の窓は開けていないから誰かが侵入してきた可能性は低い。ではなぜラブは何もない暗い階段の上に向かって、こんなにも激しく吠えているのか。
私も母も怖くなり、おろおろするばかり。
ふと、ラブが吠えるのをやめた。陰陽師の呪文の声も聞こえなくなっていた。
テレビを見にいくと、除霊シーンは終わっていた。
その後、母と階段を上って二階の部屋に行って窓の戸締まりを確認したが全て鍵がかかっており、クローゼットもベランダもトイレもくまなく見てまわったが何もなく、やはり人が侵入した形跡はなかった。
果たしてラブが何を感じていたのか、何か見えていたのか、今になっても謎のままだ。
陰陽師が呪文のようなものを唱えている間、暗い階段に向かってずっと吠え続けていたラブ。
もしかしたら、動物にしか見えない何かが陰陽師の声に導かれるように出てきていたのかもしれない。
先日亡くなられた陰陽師の方ですかね。