不思議な老婆の話
投稿者:料理好き (1)
これは10年と少しほど前。私が高校生の頃の話です。
高校二年生になると塾のテストが日曜日の昼等に頻繁にあり、両親から昼食代をもらって徒歩で歩ける程度のお店に昼食をとりに行くことが多々ありました。その日に選んだ店は商店街の一角にある静かで少し店内が暗めのラーメン屋。バイトが許されておらずかつお小遣い制だった私にとって、当時ワンコインに近い額で食べられるラーメン屋さんは私にとって貴重なお店だったのです。
何度か通っていたので一人で入ることにもう抵抗はなく、いつも通り席についてワンコインのラーメンを一杯頼みます。席はテーブル席がいくつかとカウンター席。カウンター席にはだいたいサラリーマンの方が座っているので、いつもテーブル席についていました。今回もテーブル席には私以外のお客さんはおらず、どこも空席でした。
この後も塾のテストが控えていたため急いでラーメンを食べていると、扉が開いてゆっくりと一人の女性客が入ってきました。髪の色や服装、特徴はあまり覚えていませんがかなり年配のおばあさんだったことは記憶しています。
しかし、何より衝撃が強かったので記憶に残っているのはおばあさんはベビーカーを押して店内に入ってきていました。お孫さんでもお世話しているのかなと最初は思いましたが、ベビーカーの中にいた、というよりベビーカーの中にあったものに私は驚いたのです。
ベビーカーの中に座っていたのは、女の子の赤ん坊を模した大きな人形でした。
「テーブル席にどうぞ」
店員さんは特に意識もせずカウンター越しにそのおばあさんをテーブル席に招いていましたが、私はジィとその人形を思わず見てしまいます。しっかり服を着せられた、目がパッチリしていた、強烈な洋風のお人形。高校生ということもあって知識もあまりなかったので、違和感と恐怖しかありませんでした。
「○○ちゃん、こっちよ」
おばあさんはベビーカーに向かってそんなことを話しかけていました。しかも私の席に向かい合うように別の席に人形入りのベビーカーを座らせたので嫌でもベビーカーの中の人形のぱっちりした大きな瞳と目があってしまいます。店内は静かで薄暗めのお店だったため、ことさらに私の恐怖をあおりました。
「ラーメン楽しみね、○○ちゃん」
なおもおばあさんは人形に話しかけています。もしかしてあの子のために二杯ラーメンを注文したのでは?あの人形のために。実際に注文を聞いたり見たりしたわけではありませんがそう思うとことさらに怖くなってしまいました。
私は急いでラーメンをかき込みました。もしかしたらあのおばあさんはこれからラーメンを人形に食べさせる気なのではないか?生きていない人形に。そんなシーンを怖すぎて見たくはなかったので、私はすばやく席をあとにしました。
そのあと何度かそのラーメン屋には行きましたが、結局そのおばあさんと遭遇することはもうありませんでしたし、店員さんにわざわざ聞くのもはばかられましたので彼女の正体はわからずじまいです。
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