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呪い・祟り

pikoさんによる呪い・祟りにまつわる怖い話の投稿です

赤い手鏡
長編 2022/08/16 18:30 7,422view
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暫くして、私はハッとして円盤を拾い上げ、ボディにハメ込みます。
一先ず今のは見なかった事にして、明日にでもゴミに出そうと思い、そのまま引き出しに叩きつける様にしてしまいました。

半ば現実逃避しながら布団に入ること約3時間ほど経った頃でしょうか。
私はふと目が冴えて暗がりの天井を見上げた状態で覚醒しました。
蛍光色の文字盤が浮かぶ時計を見やると、時刻は深夜の3時を過ぎたくらいです。

ただ、意識ははっきりとしていると言うのに、まるで金縛りにあったかの様に体が全く動きません。

それどころか声を出そうとしても、咽頭を塞がれた様に音を発生する事も叶いませんでした。

どうにかして体が動かせないものかと意識の中でもがいていると、頻りに何やら「カリカリカリ」といった微細な物音が聞こえる事に気付いたのです。

何の音だろうか、と意識を傾ければそれが仰向けになった私の枕元の辺り、即ち机の方から鳴っている事が分かり、私は僅かに動かせる視線を机へ向けました。

意識の片隅で引っ切り無しに奏でる「キリキリキリ」という音を何十分か聞いていると、次に「ギッ」という椅子を引きずる様な歪な音が上がり、私の警戒心も一層極まっていきます。

ガタガタガタッ

明らかに机が揺れている様な物音が鳴っていますが、私は首を動かす事も出来ない為、ただ一心に「早く終わって」と神様にお願いする事しか出来ません。

しかし、私の願いが神様に届かなかった事を証明する様に、ガコッと引き出しが開いた気配が私に伝わりました。

それから言葉に形容し難い冷たく嫌な感覚が、冷蔵庫を開けた時に漏れ出す冷気の様に私の枕元に降りかかり、か細い女性のものと思しき吐息が「はぁ……、はぁ……」と聞こえ始めたのです。

あー、ホントにヤバいやつだ、なんて思いながら必死に目を瞑るのですが、その嫌な気配は私の枕元にだんだんと近づいてきます。

はぁ……、はぁ……。

そして、女性の吐息が私の耳元に差し迫ったその時、何故かすぐ側まで迫っていた嫌な気配が微塵も感じさせない程消え去りました。

それと同時に体の自由も効くようになり、私は「わーっ」と震えた声を荒げながら布団を蹴り飛ばし起き上がると、机へと身体を向けます。

ですが、机の引き出しは開いてもいないし、常夜光に照らされた室内を見回しても変化のへの字も見当たらない事から、今までの感覚が寝ぼけて見ていた夢の片鱗なのではと自分自身を疑い始めました。

念の為、引き出しを覗いて見ましたが、手鏡は折り畳まれた状態で確かに引き出しの中にあります。

やはり白昼夢みたいなものか、と私は昨夜手鏡を覗いた際に見た女性の面影に恐怖を抱いたばかりかそんなモノを見てしまったのだと納得しました。

拍子抜けという訳ではありませんが、結局は自分の心の弱さが見せた幻覚だと悟ると、私はほんの少しだけ不安の気持ちが和らいだのか、睡魔に襲われたのでスタスタとベッドに戻ります。

布団を被って大きな欠伸をすると、よほど眠たかったのか自然と瞼が下がってきました。

そのままうとうとと意識が遠のきそうになった刹那、ガシッと冷たい質感が顔面を覆い、冷気が皮膚を伝って背中までゾクゾクゾクと迸ったのです。

すぐに目を開ければ掌の一部であろう輪郭が見え、悲鳴を上げようと思えば顔をグイッと横に無理矢理引っ張られました。

すると、その先には昨晩手鏡を覗いた時に見た前髪を垂らした女性の顔があり、僅かに覗かせていた口許を大きく開いていたのです。

私はその時に気を失ったのか、気が付けばとっくに朝になっており、本当に怖い時は悲鳴を上げる暇がない事を知りました。

あれが夢なのか現実なのかは未だに分かりませんが、早朝に引き出しを確認した時には何故か手鏡の鏡部分が枠から少し浮いていて、御札の一部が見えている状態でした。

そして、たまたまこの日が不燃ゴミの日というのも何かの因果なのかもしれません。

ですが、私は呪いめいた何かに怯える様に手鏡を捨てる事が出来ず、その日の内にリサイクルショップへ売却しました。

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