かげおくり

　【かげおくり】って、皆さんご存知でしょうか？
　晴れた日に自分の影を１０秒間見つめた後、空を見上げるとその影が空に映し出されるという、例のアレです。

　要するに残像が瞳に映し出されているだけに過ぎないのですが、それにまつわる不思議な体験談をお話しします──。

　遡ること２０数年前。まだ私が小学３年生だった頃、【かげおくり】はちょっとしたブームになっていた。

　何かにつけては【かげおくり】をしては、その不思議な現象を楽しんでいた私。その日もやはり、Mちゃんと遊んでいた私は、どちらからともなく【かげおくり】を始めた。

「「い〜ち、に〜、さ〜ん──」」

　横並びになって手を繋いだ状態でカウントをし始めた私達は、足元にある自分達の影を見つめた。

「「──きゅ〜う、じゅー！！」」

　勢いよく空を見上げた私は、そこに浮かび上がった私達の姿を見てニッコリと微笑んだ。

「……ねぇ！　私達、まるで空を飛んでるみたいだねっ！」

「…………」

「……Mちゃん、どうしたの？」

　黙ったまま空を見つめ続けているMちゃんに向けて声を掛けると、ゆっくりとこちらを振り返ったMちゃん。

「……Yちゃんじゃない」

「え……？」

「Yちゃんじゃなくて、大きなおじさんと手繋いでた」

「……？　ふ〜ん。そうなんだ」

　そう答えながらも、意味のわからない私は小さく首を捻った。

「……私、今日ピアノのレッスンがあるからもう帰るね」