本当に狂っているのは
投稿者:風見鶏 (6)
暫くそんな事を繰り返していたのですが渡辺さんが出てくる事はなく、先輩達も飽きてきたのか「んだよつまんねー」と文句を言い帰って行きました。
私達も廃アパートに引き返そうとした時、視線を感じ渡辺さん家の方を振り返ると、玄関が少し開いていました。
私は怖くなり走り出すと、皆も慌てて「なんだよなんだよ」と言っていましたが、私は無我夢中で自転車に乗りそのまま必死にペダルを漕いで帰宅しました。
それからは何故か皆、渡辺さんの話題には触れる事なく夏休みに入りました。
部活や宿題ですっかり渡辺さんの事は忘れていたのですが、家族で夕飯を食べている時に母が、
「お父さん、そういえば〇丁目の渡辺さんの奥さん、酷い鬱になっちゃったらしいわよ。なんでも毎日のように騒音とか嫌がらせに悩まされてたんですって。何でかしらね。可哀想に。」
私は胸がギュッと痛くなりました。
忘れかけていた渡辺さんという名前を聞いただけでなく、奥さんが鬱になってしまったという事実に動悸が止まりませんでした。
でも、「毎日のように」と言うのがよくわからず、すぐにBやCに聞いたところ、どうやら先輩達があれから毎日のように渡辺さんの家に行き、嫌がらせをしていたとの事でした。
私はとんでもない事をしてしまったと後悔したのですが、BやCは
「キ〇ガイなんだからいいじゃん。どーせ奥さんだってキ〇ガイだったんだろ。」
と責任逃れをするだけでした。
それから私は外に出るのが怖くなり遊びにも行かず、塾の帰りもすぐ帰るようにしました。
夏休みが終わり暫くした頃、渡辺さんの奥さんが自殺したと母と父の会話で知りました。
「朝方ね、渡辺さん家の隣の奥さんが見つけたみたい。庭の木で首吊ってたんですって。旦那さんは座り込んでぶら下がってる奥さんをじーっと見てたみたいで。もしかしたら旦那さんも鬱なのかもしれないわね。」
私は思い切って母に尋ねてみました。
「渡辺さんって、、、元々少しおかしい人なんだよね?」
すると母は、
「何言ってるの。旦那さんも奥さんも普通よ。むしろ旦那さんは長い事銀行に勤めてて飲む・打つ・買うもしない真面目な人だし、奥さんだって頭は良いし誰にでも優しくてあの人達を悪く言う人なんて見た事ないわ。」
私はこの時程、罪悪感というものを強く感じた事はありません。
自分の身に起こった事(被害者側として)に近くて何とも言えない気持ちになった
どうすることもできないと言って開き直れるほど狂ってるんだよね