目立たない子
投稿者:くまふくろう (3)
私が小学校五年生の頃、同じクラスに臼井君という男の子が居た。
臼井君はクラスの中でもとりわけ目立たない子で、話の輪の中にいてもよく、
「あれ?臼井、居たの?」
と言われるほどの存在感のなさであった。
家が近所なので、私は時々臼井君と一緒に帰ることがあった。私の家周辺はごちゃごちゃとした路地が入り組んだ所で、一つ入るのを間違うと迷ってしまうが、しかしながら地元で暮らしている者が迷ってしまうほどではなかった。
ある日、学校を休んだ臼井君に配布されたプリントを届けようと彼の家に向かったが、よく知っている場所な筈が、一向に臼井君の家にたどり着けない。
「そんな筈はない」
と、右往左往したが、数十分アチコチ探してもたどり着け仕舞いであった。
数日後、登校してきた彼はボソッと
「風邪ひいちゃった」
と言った。配布プリントを届けに行き、たどり着けなかったことを話すと、
「一緒に帰って確認したら」
と、彼に言われ、再度彼の家に行くことに。
「ほら、着いた」
静かに微笑む臼井君に対して、私は目印を覚えようと必死な顔だ。
消火栓のところを右折、ボンカレーの看板のところを直進。水路の橋渡って、柳の木の向かいにある青い屋根の二階建て。
よし、完璧だ!
しかし、それから何度か一人で臼井君の家に行こうとトライしたが一度もたどり着けない。
そうしているうちに年度が変わって、臼井君とは別のクラスになってしまって、そのまま疎遠になった。
中学生になって、ふとした機会に小学校で同じ校区だったやつに臼井君のことを話したら、
「誰、それ?」
と言う。
彼も同じクラスで一緒に話していたのに、臼井君のことを全く覚えていない。
他のやつにも訊いたが誰一人として覚えていない。
余りにも私がしつこく言うので、二瓶という少しイキったやつが、
「だったら、明日卒業アルバム持ってくっから!」
と、睨む。
「お、おう・・・」
と、言って帰宅し、慌てて小学校の卒業アルバムを開いて見たが、臼井君はどこにも居ない。
「四組だったはずなのに・・・」
存在が薄い臼井くん