引っ張るおじいちゃん
投稿者:くまふくろう (3)
これは、私が小学一年生の時のお話。
私には、2つ年上の姉と3つ年下の弟がいます。
弟は神経が過敏というか、ちょっとしたことでも怖がって、夜中に一人でトイレなんて絶対にいけないような子どもでした。
ある日、田舎の祖父母の家に泊まった時のことです。
4月生まれの私は既に7歳、弟はまだ4歳でした。
朝起きると姉から、「弟が騒いでいる」と聞きました。
仏間の前にある和室にいるというので、野次馬根性で覗きに行くことにします。
弟は、制止する母の声も聞かず、泣きわめきながら6畳間の和室をグルグル走り回っていました。
「やめて! ひっぱらないで!」
と叫びながら。
弟は、たびたび後ろを振り返りながら、寝間着の裾を掴んでいます。
まるで後ろに誰かが迫ってきているかのようでした。
この騒ぎは小一時間ほどで収まりました。
母に抱かれでぐずついている弟に「なんで走ってたの?」と聞くと、「怖い顔のおじいちゃんがひっぱってくるから」というのです。
「怖い顔のおじいちゃんって誰?」
「わかんない」
「引っ張ってくるってどこを?」
「ここ(寝間着の裾を指さす)」
まるで現実味のない答えに、大人たちは「怖い夢でもみて、それを引きずっているのだろう」と結論付けました。
弟もひとしきり泣いたら落ち着いたようで、のんきににウインナーをぱくついていました。
――弟の騒ぎなんて、皆が忘れた頃
「帰る前にご先祖様にご挨拶していこうね」と仏間へ入った時です。
「あっ! あのときのおじいちゃん!」
と弟が指さしました。
指さしたのは仏間に並んだ遺影の一つ。
曾祖父の写真でした。
当時の自分がそれを聞いて何を思ったのか、今では覚えていません。
しかし、今思い返すと、「何を馬鹿なことを」という感想と同時に、「だから私たちには見えなかったのか」と納得する自分もいます。
曾祖父は私たちが生まれる前に亡くなっているので、弟とは全く面識がありません。
なのにどうして、弟を追いかけまわして裾を引っ張ったりなんてしていたのでしょうか。
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