古家の泣き声
投稿者:menyumpahi (2)
歯磨きに没頭していると、ふと鏡に目が行く。
廊下の中央、木柱の梁が付けられただけの洗面所は廊下と区切りがなく、ちょうど漢字の凸のでっぱり部分に位置しており、その左右にトイレと浴室がある。
つまり、壁掛けの鏡へ体を向けていると、自ずと鏡に映る廊下側の壁が目に入る。
私が薄暗い廊下を鏡越しに眺めていると、あの音が聞こえてきた。
ズリ……、ズリ……。
この音はいったい何の音なのだろうか。
連日連夜とはいかないものの、時折聞こえてくる不可解な音に私は眉間を寄せる。
『あーお……』
そして、その不可解な音に共鳴するように、猫の鳴き声が聞こえてくる。
これだけ賑やかなら寂しくはないな、と苦笑しながら嗽をし、ついでに顔も洗顔してタオルで拭っていると、何やら穴が空きそうな強烈な視線を背中に感じて、私は直立したまま動けなくなった。
引き摺る音と猫の声は継続して聞こえている。
いや、少しづつ近づいている気配がするのは、恐らく気のせいではないだろう。
私は視線だけ動かし眼前の鏡を見やる。
「……う」
鏡の角地、私の背景にある廊下の足元あたりに、何かが蠢いているのが見え、私は驚愕した。
小さな塊にも見えるそれは、猫のように小さく四足歩行なのは視認できるが、薄暗い廊下と同化するように真っ黒な靄のようなものに包まれて全容は確認できない。
『ああ……うう……』
その小さな物体は少しづつ私の足元へ迫り、手のようのものを伸ばしてくる。
私は咄嗟に目を瞑り、うろ覚えの御経を呂律の回らない舌で唱え始めた。
すると、御経の効果がそれなりに出たのか、徐々に視線が遠ざかり、小さな物体が消えている事に気づいたのは、御経を唱えて5分くらい経過した後の事だった。
そして、私はこの物件が曰く付きなのだと遅まきながらに確信する。
そうと分かれば、私は翌日さっそく親戚に電話をした。
「ああ、おじさん。あのぉ、家のことなんですけど、一つ確認取りたいんですけどいいですか?」
「どしたの?何か問題あったかな。一応、掃除とか庭の手入れはしてたつもりだけど……」
私は引っ越してきてから僅か1週間と満たない中で体験した話を赤裸々に語った。
途中、親戚のおじさんは電話越しにでも訝しむように眉に皺を寄せている事が想像できたが、私が話し終わるまでは静かに相槌を交えながら聞いてくれたので大人の余裕を感じた。
そして、私の体験を聞き終えたおじさんは「うーん」と低い唸りを挟んだ後、気まずそうに口を開く。
「君が嘘を言うような人間じゃないのは知ってるけど、どうしても信じられないなぁ。俺も若い時はそこで暮らしてたけど、そういった事は一度も起きなかったよ」
おじさんの言葉に若干落胆しながらも、私は話を聞いた。
「でもね、もし本当にオバケが出るなら大家の俺が確かめないとな。週末、見に行くよ」
いや怖いよ
面白かった!
この投稿者さんの名前って…
気になって翻訳しちゃいました
インドネシア語で呪いみたいな意味があるようですね
怖い…
バイオハザードヴィレッジ(バイオ8)のベネヴィエント邸に出てくる赤ちゃんを想像してしまった…