お化け屋敷のお化け
投稿者:piko (6)
これは不味い、嫌だ、見たくない。
女性の顔を見たらダメだと私は激しい抵抗感を覚えるも、無情にも女性は顔を上げきり、私と目を合わせる事になる。
その女性の顔は全体的に青白く水死体のようにぬめぬめとテカリを帯びており、両目は蛆のような形をした先端が飛び出して触手のようにうねうねと動いていた。
その顔で女性は若干口角を上げて微笑むのだ。
「きゃあああああああ!?」
次瞬、金縛りが解けたと同時に声が出るようになったのか、私が全力の悲鳴を上げると、YとMが反応して振り向く。
現実逃避するように目を瞑り私はその場にへたり込むと、脳裏にこびりついた恐怖心からわなわなと震えるのだった。
「何、どしたの?」
「何か出た?」
二人はお化け屋敷の演出か何かが起きたものだと思ったのか、周囲を見渡す。
しかし当然ながら、そのような幽霊役が出たような形跡がなく、私達以外に誰も居ない事から肩透かしだと言わんばかりの表情を浮かべた。
「何もいないじゃん」
「ビビりすぎ」
押印を済ませ出題もクリアしのか、二人は紙切れ一枚を靡かせて出口を目指して進み始める。
私も慌てて二人の後を追いかけるのだが、どうにも震えが止まらなかった。
というのも、先ほど私を驚かせた小柄な女性が忽然と姿を消したのだ。
私が驚きのあまり悲鳴を上げ腰を抜かしてしまった、その間。
少し目を瞑った間にその女性は消えた。
釈然としないまま私はお化け屋敷を進むのだが、明らかに生きている人間の出で立ちではない女性の事が気がかりで、どうにもその後の幽霊役の脅かし様では驚く事もできず淡々と消化するようにYとMに追従するだけだった。
気が沈んだまま漸く出口にやって来ると、扉の手前にスタッフが待機しており、押印と出題の答えが書かれた紙切れを提出して無事達成となる。
商品として出店の割引クーポンを受け取ったYとMは、さっそく何を食べるかという話題で盛り上がるも、私はどうにも女性の事を忘れる事ができずスタッフに訊ねてみた。
「あの、私より小さいこのくらいの人って幽霊役に居ます?」
私は手を使ってそれらしい背丈を示すと、スタッフは「うーん、うちには居ないですかね」とあっさり答える。
じゃああの女性は一体……。
不思議そうに見つめるスタッフに愛想笑いを浮かべながら頭を下げると、私はYとMを追いかけるようにお化け屋敷を退出した。
もしかしたらスタッフの悪戯だったのかもしれないが、何とも言えない後味の悪さが残る奇妙な体験だった。
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