遺影の願望
投稿者:@zawazawa46 (2)
祖父が当時の俺と同じくらいの子供だった頃、やはり蔵の中で写真を見つけた。
この辺りの記憶は曖昧だが、とにかくいつの間にかマサ坊とは大の仲良しになっていたらしい。
そして彼と会わなくなった経緯も概ね俺と同じだった。
おじいちゃん子だった祖父は、祖父の祖父、つまり俺の高祖父にあたる人にわんわん泣きついたそうだ。
祖父があまりにも泣くものだから、高祖父はマサ坊のことを話してくれたのだという。
高祖父は7人兄弟の長男で、マサ坊は末の弟にあたる人なんだと。
マサ坊には知的障害があって、少しなら話せるが長い言葉を覚えることは出来ず、知能も生涯に渡って5歳程度だった。
高祖父も含めた兄姉達は穏やかな性格で純心なマサ坊を可愛がっていたのだが、両親を始めとする集落の大人達はそうではなかった。
当時はまだ障害者に対する偏見が強く、そういった子供は家の恥であるという考えから蔵に軟禁して育てていた。
穀潰しと言われたマサ坊は僅かな食べ物しか与えられておらず、不憫に思った高祖父達がこっそりと夕飯の残りを分けたりしていたそうだ。
マサ坊は集落の子供達が駆け回って遊ぶのをいつも見ていた。
一日中飽きもせず、毎日毎日蔵の窓から顔を出して観察している。
その後マサ坊が15歳になった時、高祖父の妹が嫁入りで家を出ることになったので、最後の記念にと家族写真を撮ることになった。
高祖父たちは反対する両親に頼み込んでなんとかマサ坊の写真を残して貰えることになったのだが、母親がキ●ガイと一緒に写るのだけは嫌だと言って折れてくれず、結局彼は1人での撮影となる。
あの蔵にあった写真はその時のものだ。
マサ坊はそれから1年も経たずに病気で死んでしまったので、その写真が彼の遺影となった。
とは言っても、障害のあった彼の写真をご先祖様と同じ仏間に飾るのは憚られるということで、蔵にしまわれたままになっていたのを後に生まれた祖父が見つけたというわけだ。
祖父の話を聞き終えた俺は、全てが腑に落ち納得していた。
マサ坊の言動が年の割に幼かったのも、両親に見えなかったのも、ちゃんとした理由があったのだと。
蔵の中から子供達を眺めるだけだったマサ坊は、きっと駆け回って遊んでみたかったに違いない。
だから俺や祖父のところに現れたのだと思った。
「○○(俺)がマサ坊と会っていたことを聞いた時は、懐かしくて涙が出そうになったなあ。」
祖父は続ける。
「その時お前はまだ子供だったから、昔の偏見をどう説明していいか分からんかった。味方になってやれなくて悪かった。」
「でもさ、じいちゃん。父さんも母さんもマサ坊のこと、知らなかったよね?なんで?」
俺の問いかけに、祖父は声を小さくして答えた。
「誰にでも見えるわけではないんだよ。だからじいちゃんと○○だけの秘密だ。」
そう言ってニカっと笑った祖父の顔は、どこかマサ坊に似ている気がした。
その祖父は数年前に亡くなり、俺には息子が生まれた。
もしかしたら俺はまたマサ坊に会えるのではないだろうかと、密かに期待している。
凄くいい話ですね。
胸が暖かくなりました。
悲しいが、会えなくあるという事は大人にあるという事なのかもしれませんね。息子さん
マサ坊会えると良いですね。
純心な子達と遊ぶ事が、みんなが彼の存在を忘れない事が、一番の供養かもしれませんね