【特別投稿】或る殺人者の手記
投稿者:奇々怪々 (1)
完璧だ。これでもう証拠はない。
自分は警察に見つからないことを確信していました。
正直、ほっとしました。それで終わったつもりでした。少なくとも、その時点では。
しばらくのあいだは、自分の財布にあった金や店から持ち出した金、店長の財布に入っていた金で、安い宿に泊まっていました。
これからどうするか…。考えてみれば、自分はもう元の部屋には帰れません。
これから金をどうすればいいのか。実家に連絡したり、銀行を使ったりすればすぐに居所が警察にばれてしまうと思いました。
もう誰も頼ることはできないし、まともな住所もありません。
どうしてやってしまったのかわからない殺人のせいで、自分はいまやホームレスに等しい存在になってしまいつつある。
ビジネスホテルの受付で住所を書かされそうになったときに(実際、それは世間知らずだった自分にとっては盲点でした)、とっさに出鱈目な住所と名前を書きましたが、いつまで誤魔化せるか。
身分証の提示を求められたらおしまいです。
狭いベッドで、そんなことをぼんやり考えていました。
深夜二時を過ぎていましたが、何となく点けっぱなしにしておいたテレビからは、自分のしでかしたことを報道するニュースは聞こえてきませんでした。
代わりに、日韓ワールドカップのサッカーの試合のようすを伝える能天気なアナウンサーの声が聞こえてきました。
気が立っていた自分は、テレビを消してリモコンを放り投げました。
疲れ切っていたのでしょう。自分はいつのまにかうとうとしていたらしく、妙な夢を見ました。
自分は草の上に寝そべっていました。空がすっきりと晴れていて気持ちよかったのを覚えています。
北関東の強い風に、上空に少しだけ見える雲がどんどん流されていきます。
そのときでした。
ずるっ!…と自分は両足を引っ張られました。
引っ張っている奴の方を見ようとしましたが、なぜかそっちを向くことができません。
見えない奴にどんどん引っ張られていきます。草っ原は斜面のようになっているらしく、自分は上に引きずられていくのです。
自分は声をあげて抵抗しようとするのですが、しゅうしゅうと変な音がするだけでなぜか声が出ません。
いちばん上まで来たらしく、いったん自分の体が止まります。
ごうごうと水の流れる音がします。川か用水路か、とにかく水の音です。
男の声でなにか言っているらしいのが聞こえますが、よく聞き取れません。
最後の「よし」という声だけは聞き取れたと思った瞬間に、腹のあたりを蹴られて自分は斜面を転がり落ちていきました。
顔の辺りはやっぱり見えないのですが、そいつが右手で自分の方を指さしているのだけは見えました。
「あっ」と思ったときには目が覚めました。
ずるっ!
目を覚ましたはずなのに、また両足を引っ張られる感触がありました。
おどろいた自分は思わず「うわ」という声を出してしまいました。
あわてて跳ね起きましたが、なにもいません。
でも、生臭いというか、なにか魚の腐ったような嫌な臭いがしていました。
ごぼごぼ…という配管のような音も聞こえます。
もちろん、頭に浮かぶのは店長の最期の姿でした。
しかし、「おかしいなあ。水道が壊れているのかあ」とわざとに大きな声を出して、自分は気づかないふりをしました。
ふだんから幽霊なんてばかばかしいものは、自分は信じていなかったのですが、あのときばかりはどうしても店長のことが頭に浮かんでしまい、嫌な感じがして仕方ありませんでした。
実話をもとに書かれたリアルな体験談。
中盤から終盤にかけてのモノローグ。
得体の知れない衝動に駆られ、かくたる動機もなく、人を殺めてしまったことへの後悔と罪悪感に苛まれ、恐れおののく様がぐいぐいと痛いほど伝わってきます。
精神を病み、幻想とも幻覚とも付かない店長から逃げ惑う日々に終わりを告げ、安堵する姿は、どこかホッとさせるものがありました。
17年の実刑判決を終え、穏やかで平穏な日々を送られていることを切に祈り願います。
読み応えありました
いくつかの単語でググったら割と有名な事件出てきたけど、そんな簡単に特定できるわけないですよね
当時の彼女のことは警察には言わなかったのかな
次回作も期待
福川水門かな
人殺しの分際で周りを屑呼ばわりとかもう静かに暮らしたいとか随分と図々しい人だな、ほんとに反省してる?もし本当に店長の呪いなら警察に捕まろうが刑務所に何年入ろうが追ってくるよね。結局自分の妄想に自分で決着つけちゃってそれで良しとするこの人の最後まで自己中な心持ちが透けて見えるだけだった。
作品として面白かったです。
ノンフィクションだとしたらなかなかの文章力。さすが腐っても国立合格の教養といったところでしょうか。