捨てたい人形

まさかしゃべるとは思っていなかったので、悲鳴を上げました。
そしてそのまま全力疾走で部屋まで逃げ帰り、そしてそのまま布団の中でブルブル震えました。
そしてそのまま気づいたら朝だったのです。

朝起きたら午前10時過ぎ。メンタルはズタボロでどう考えても仕事に遅刻しており、私は途方にくれました。
これがきっかけで一気に肩の力が抜け、もうどうでもいい気分になりました。

私が朝一でしたことは仕事に行く準備でもなく、職場への謝罪の連絡でもなく、彼への電話でもなく、着替えてゴミ捨て場を見に行くことでした。
昨日の人形がどうなったのか確かめたかったからです。
ゴミ袋にも入れずにそのまま放り出してしまった人形はゴミ捨て場には、もうありませんでした。

私はその後しばらくして、職場に退職届を出し、そしてDV彼氏と別れました。
連絡先も全部消して、住んでいたマンションを引き払い、地元で再出発することに決めました。

最後にあの人形が言っていた「捨てないの？」が引っ掛かったからです。
人形が「捨てないの？」と聞いたのは、おそらく自分を捨てないの？という意味ではなかったんじゃないでしょうか。
泣いて死を考えるほど追い詰められて、ボロボロだった私を心配して、「仕事もDV男も捨てないの？」と背中を押してくれたような気がしました。

今私はすごく元気で、自分のあった職場で、心穏やかに働いています。
捨てたい人形はあの日すんなり捨てられました。一緒に要らないものをすべて捨てたおかげで、今は体も心もとても健康です。
元カレとあの人形にはとても感謝しています。